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いろいろな本を、それなりに読んできたと思ってはいるけれど、実際には相当の「名作」を読みそこなってきたこともたしかだと思う。
いっぽうで、そうした名作は「若い時に読むべきもの」という先入観があって、30歳を越した頃から「読み時を逸したのかな」という思いが強まり、そのままになってしまった本も多い。殊に、小説はそうだ。
福永武彦もそんな作家のひとりだった。いままでなぜ読まなかったんだろう?と思うが、理由は自分もわからない。縁がなかったのだろう。
この五月の連休に東京を離れて、とはいえあちこち回るような旅をするつもりもなく、たまたま入った古本屋で「忘却の河」と出会った。
『私がこれを書くのは私がこの部屋にいるからであり、ここにいて私が何かを発見したからである。その発見したものが何であるか、私の過去であるか、私の生き方であるか、私の運命であるか、それは私には分からない。』
この冒頭を読んだときには、純文学から遠ざかり気味だった自分には、少々の手ごわさを感じた。
半日で読んだ。そして、本に「読み時」などないのだと思った。
昭和39年、つまり自分が生まれた年に刊行された小説だが、50歳を超えて主人公の歳に近づいている。登場人物の、さまざまな思いが想像以上に自分の心の中に入ってくる。 >> 初夏の邂逅~「忘却の河」(福永武彦)の続きを読む