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伝記は難しい。事実を並べるだけなら年譜で十分だし、それなら各地にある「記念館」に行けばいいだろう。
しかし、伝記にも作者がいて、そうである限りは切り取り方が問われる。その記述が、伝記対象者の作品解釈にまで影響を与えることもあって、それが難しさの根っこにあると思う。
日本におけるベートーヴェンの「楽聖」イメージは、ロマン・ロランの伝記による影響が大きいが、それによって音楽そのものへの感じ方が偏向したとも言われる。
逆に「アマデウス」のように、一本の映画によってモーツアルトのイメージは大きく変わった。
伝記作者としての1つの方法は、事実をできるだけ多く集めて多面的に記述することだろう。その1つが今年刊行された立花隆の『武満徹・音楽創造への旅』だろう。
もう1つは作者の視点で情報を削ぎ落して構築する方法だろうが、この『石川啄木』はそちらの方に近い。
僕にとって石川啄木は、もっとも好きな歌人だ。とはいえ、学生時代から関心があったわけではない。30歳を過ぎた頃に歌集を読んで、改めて驚いた。 >> 日本人への贈り物。ドナルド・キーンの『石川啄木』の続きを読む