「新卒離職率が低い、ホワイト企業トップ300」という記事が掲載されていた。
ブラック企業が話題になっているだけに、「ホワイト企業」というのはつかみがいいかもしれない。もっとも社長が白い犬だったりするのかもしれないが。
記事のトーンとしては「離職率が低い=いい会社」という感じがする。もちろん、離職率が低いということには「いいこと」もある。ただし、ことはそれほど単純ではないようにも思う。
いまから書くことは、キャリアの仕事に携わる人間にとっては常識的なことだ。ただ、この記事はヤフトピにも上がっていて、この就活シーズンに「ホワイト企業」だけが一人歩きするのもなあ、という感じがするので、簡単に書いておきたい。
「離職率が低い会社」には、どのような理由があるのか。僕は以下の面から考えられると思う。
P. 会社に問題が少なく、いい職場であり満足している
これは、もちろんその通りだと思う。
Q. 転職志向の低い社員が多いこと
つまり最初から「一生同じ会社」という志向性の社員が多ければ離職率は低い
R. 社員が転職するだけの能力を持ち合わせていない
会社に就職することと、転職する能力は別物なので当然こういう側面もある
S. 業界全体が停滞・後退期で求人がない
若年の転職は同業や隣接業界であることも多い。業界に活気がなければ転職率は低い
つまり、「離職率が高い会社」はその逆の特徴があると考えられる
P’. 会社に問題が多く職場の雰囲気が悪い
Q’. 転職志向の高い社員が多い
R’. 社員が転職するだけの能力を持ち合わせている
S’. 業界全体が成長期で求人が多い
少なくとも「離職率が高い=ブラック」というほど単純な図式ではないということだ。
もちろん、離職率が少なく素晴らしい会社もあるが、離職率はあくまでも現実の一側面。こういう記事に対しては、常に多面的に考えることが必要だと思う。特に学生の皆さん、よく考えてみてね。
私は、営業ノルマは必要ないと考えています。「絶対に仕返しをされない」という上下関係の構図で課せられるのがノルマです。社長が判断ミスをして社員に叱られますか? ビジネスで最も恥ずべきひきょうな行為です。ノルマが嫌で、あるいは上司が嫌いになり、会社を辞めた仲間を何人も見ました。ビジネス界にとって大きな損失です。
経営者が怠けている証拠でもあります。ノルマで脅して社員を思い通りに動かそうとすしくじった社員を叱ると、次の営業はどうすると思いますか? 何とかして売り上げの数字を作ろうと、提案が縮こまります。それでは、正しいビジネスを覚えられません。「コミュニケーションができてないよ。どうすればいいか、次の会議まで他の社員の行動を見て勉強してごらん」。そんなきっかけを与えてやるのが、本当の指導です。
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さて、上記の文章は私が書いたものではない。朝日新聞デジタルに掲載された桑田真澄氏の文章を少々いじらせて頂いた。原文は、以下のとおり。例の大阪の高校で起きた体罰と自殺をめぐる問題へのコメントである。
「つまり、”カネじゃない”はカネ、なんだ」
これは、某弁護士が残した言葉として、企業法務の世界では伝わっているという。つまり、こういうことだ。
ある人が企業にクレームをつけて来たとする。違法ではないがトラブルになり、菓子折りを持って謝罪してもダメというような状況で、必ず「落としどころ」が問題になる。
そこで、クレームをつけた当人がこういう。
「こちらが言っているのは”カネじゃない”。おたくの誠意が見たいんだ」
ところが、件の弁護士によれば、この場合は結局「カネで解決」することが殆どだという。つまりというわけで、「”カネじゃない”はカネ」という金言が生まれたのだろう。
最近のおカネをめぐる話を見ていると、このエピソードを思い出す。
「人生、カネじゃない」
そんなことは言われなくてもわかっている。ただし、どれくらいカネにこだわるかは人それぞれだ。でも、若者がついに「カネ離れ」まで起こしているような話も出てくる。
「若者はおカネよりも人との結びつきを求める」みたいな記事も散見されるようになった。そういう話に「ソーシャル」の文字でも入れれば、何となく今どきの風潮を描いた記事にはなるんだろうか。
石原慎太郎が、先の記者会見で自らの歳にからめて「若い人、しっかりしろよ」と発言した。まあ言いそうなことなので別段驚かないんだけれど、読売オンラインの記事がおもしろかった。「若い人」(と言っても学生から50歳前後まで含んでいるが)の反応が「共感と反発」に分化しているという。(日経にも同様の切り口の記事があった)
まあ取材した範囲だから、どっちが多数派か?とかはわからんのだが、なるほどなと思った。
ただ、この手の発言は彼だけじゃなくて、企業経営者や幹部がよく言ってることでもある。そして、そこには共通した現象と心理が垣間見えるから面白い。別に80歳じゃなくても、こういう発言する人には似たところがある、ということだ。
まず、「若い人が出てこない」という人は、そもそも自分がどいてない。長いことレギュラーに居座っている芸能人も似た様なことを言う。「俺のポジション取りに来い」とか言っているけど、そもそも自分が今のポジションに執着している人が、他人事のようにのたまう。
これは企業でも、そう。
次に、育成策を実行していない。「育てられた」という感謝を持っている人は、育成に注力するが、自分でよじ登ってきた人は、他人もそうするだろうと思っている。まあ慎太郎もそうだろう、実力でのした人だからだ。企業でも、自ら這い上がった幹部は、過剰な現場重視をするし、育成を軽視する。同じような時代ならどうにかなるが、環境変化には脆い。
そして、決定的な特徴は過剰な自己愛だ。結局、「若い人がしっかりしてない」というのも、「だから俺がやる」ということの”枕詞”である。結局は自分が愛しく、大切ということだ。経営者にもいるでしょ、「再登板」みたいなパターン。
しかし、政治家であれば若い人も選挙を通じてNOと言うこともできる。もちろんYESでもいいけど。しかし、企業ではそうもいかない。
「若いのがしっかりしてない」という企業幹部の発言は、組織が傾くアラームとして聞くしかないのだろう。
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就活を控えた学生のためのフリーコンテンツ「就活セットアップ」をスタートさせました。リンク先はトップページですが、右下のアーカイブから掲載分はすべて読めます。11/30まで続きます。
で、最初に言っておくと「ぐるなび」でも「カーナビ」でもありません、今日の話は。就職活動のナビサイトのこと。
ゆるゆると始めた「就活セットアップ」の連載だけど、第1週は学生が気にしているポイントを5つほど取り上げていこうと思ってる。で、今日の掲載記事は就活の「情報」について書いておいた。
簡単に言えば、いわゆる「ナビサイト」に振り回されるな、その背景をつかんでおこう、ということになる。
12/1の解禁後はもちろん、学生は恐ろしいほどの量の情報の海に投げ込まれている。それは企業からの情報ではなく、リクナビやマイナビなどの「ナビサイト」から発せられている。
日本は短期間で新卒一括採用をするため、こうした就職支援企業のビジネス機会は増える。自前で採用・広報システムをゼロから作って運用するのは、たしかに割に合わない。もっと中長期的に学生と付き合って採用するなら、このようなエントリーシステムは必要ないだろう。
だからナビサイトが盛んになることは、まあ経済団体の決めた仕組みから出た必然でもあり、その存在の可否を論じるつもりはない。
ただ、ここ最近の動きを見ると「ちょっとハシャギ過ぎじゃないか」と思っている。
まあナビサイトの広告をするのも自由とは思うが、12月1日の駅貼り広告とか恐ろしい量が出る。いわば「開戦告知」のようなものだ。当然、学生は焦る。情報の荒波で強烈な船酔いを起こす状況になるが、その荒波をナビサイトが作っている面もある。
学生に見せてもらったのが、どんどんコンテンツが増加している。ただし、本質的な「ナビゲーション」になってはいない。こうなると、「情報をやり過ごせる学生」じゃないと精神的に厳しいだろう。
潜在能力を持っているのに「ウロウロしているうちに就活終了」という学生が結構いるのだ。そういう状態はとにかく避けたいな、と思ってこの企画を始めてみたわけである。
ま、これは学生に限った話ではない。そもそも、ナビゲーターというのは「目的地を持った人」にとっては便利だが、目的地を決めてもらう仕組みではない。それなのに、情報に対して過大な依存をしているのは大人も同じなんだけどね。