折角だから、あと1回くらい今年の本を書こうと思って、最後はアート&音楽篇。
音楽については、以前紹介した『武満徹・音楽創造への旅』(立花隆/文藝春秋)が戦後文化史としても出色だった。
もっと間口は狭い感じがするものの、読みやすくて面白かったのが『マーラーを語る 名指揮者29人へのインタビュー』(ヴォルングガング・シャウスラー/音楽之友社)だ。
アバドからジンマンに至る29人の指揮者に、マーラーの音楽について尋ねていくという構成だ。
マーラーが好きで、いろいろな指揮者を聞いている人にとってはもちろん興味深いと思うけれど、このインタビューはマーラーを通じて「指揮者の思索」を浮き彫りにしているところが面白い。
つまり、「ああ、結構深く考えているんだな」とか「意外とアホだなこいつ」のように、指揮者のアタマの中を開いて覗いているような感じもするのだ。
個人的に面白かったのは、バレンボイムとブーレーズ、あるいはマゼールなど。カラヤンのことを語るアバドや、そのアバドからの薫陶に感謝するドゥダメルなど、指揮者同士の出会いや影響を知ることもできる。
ちなみにブーレーズによれば、マーラーの音楽素材は「葬送行進曲、軍隊行進曲、レントラー舞曲、それだけ」ということらしい。まあ、そうかもしれないけど。 >> 【2016読んだ本から】③音楽とアートなど。の続きを読む
最近自宅近くにはどんどん新しい飲食店ができるので、1人で偵察メシに行ってもいいんだけど、なにか舞台がないかなと探した。
コンサートから演劇辺りを検索して、キャラメルボックスの「ゴールデンスランバー」も気になったけど、東京芸術劇場のコンサート・オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」のチケットがあって、しかも1FのLBブロックという、個人的にはベストなエリアが空いている。
最近、直前検索をすると、使い勝手や残席の場所はぴあよりもイープラスの方がいいことが多いんだけど、いずれにせよ便利だ。12月は、直前の検索と予約でこれを含めて3回行くことになる。
そして、この公演だけど、歌手6人のうち、2人が体調不良で変更ということだったが、仕上がりはとてもよかったと思う。
ハンマークラヴィーアと指揮のノットは全体の見通しもいいし、要所の締め方も見事。東京交響楽団の反応もよくて、木管の音程が怪しいところもあったけど響きが充実しているから、まあいいか。
「コジ・ファン・トゥッテ」は、まあ話のリアリティは妙だし、結末もスッキリしないかもしれないけど、これは「劇中劇」みたいなもので、「男が女を騙す」話は「夢の中のこと」のような「入れ子造り」になっているようにも思う。
まあ、おとぎ話として音楽を楽しむのがいいわけで、今世紀に入って評価されたというのも、聴き手に余裕ができたからなんだろう。 >> 「思い立ってふらり」が高レベルだから東京はすごい。ノット=東響「コジ・ファン・トゥッテ」の続きを読む
六本木のダリ展に行った。会期末とはいえ水曜の16時過ぎだったので、どうにかなるかと思ったら20分待ちだった。まあ、どうにかなる程度の混み方ではあるけど、来週月曜までなので、この週末は混むだろう。
最近の美術展にしては、若い人が多い。学生のようにカジュアルな格好の人が目立つが、スーツを着ている人や、小さい子どもを連れた人もいる。
警備員が「危ないですから」と客に声を掛けていて、どうしたのかと思ったらスマートフォンでゲームをしている若いスーツ姿の男性だった。20分も待って入って、どうして絵の前でゲームをしたいのかと思ったけど、そんな感じで普段展覧会に来ていないような人も多い。だから混んでいるんだろう。
後ろの方で、カップルが会話していて、女性の声が聞こえる。
「やっぱり、色が違うわ~。私、プリンタの色って嫌い」
「おまえ、それが“差”というものやろ」
「わかってるわ!そんなこと言ってるのと違う!」
という感じで、関西弁で炎上しそうなカップルもいて、まあフツーの展覧会とは違う賑やかさだった。
それにしても、ダリというのはユニークなポジションの作家だ。有名な作品を見れば、「ああ、これがダリか」というくらいよく知られている。一方で、その思想的なバックボーンをキチッとわかっているかというと、そうでもなかったんだな、と今回の展示で改めて感じだ。
初期作品をこれだけ見たのははじめてだ。
考えてみると、僕が学生の頃は、ダリをはじめとしたシュルレアリズムの展覧会が多く開催され始めていた頃だ、西武がまだ「セゾン」なんて名乗らなかった頃で、まだあちこちの百貨店が美術館を持っていた。
公立系の美術館よりも、そうしたところで開催されていたのだけれど、僕も結構行ったと思う。
印象派などはいかにも「ベタ」だし、かと言って抽象画はわからない。そういう時に、シュルレアリズムなどは「アート知ったかぶり」をして、文化的気分に浸るのにちょうどよかったんだと思う。
そして、いまや日本語で「シュール」という言葉が定着していて、「シュールな笑い」のように誰もが使う。その由来は「シュルレアリズム」のアートなんだろうが、「非現実的」「ぶっ飛んでる」くらいのニュアンスだろう。もっと昔だと、「ナンセンス」と言われていたような感じだろうか。
ただ、そうして「シュール」と言っている人も、その由来の絵を見ているとは限らない。
そして、「シュール」の本家本元の絵を、確認する。「そうか。これが、あの“シュール”の元だったのか」と。
日本におけるダリ展というのは、そういう意味もあるように思う。
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ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN オーケストラ・プログラム
シュターツカペレ・ドレスデン 演奏会
指揮:クリスティアン・ティーレマン
ピアノ:キット・アームストロング
2016年11月22日 19:00 サントリーホール 大ホール
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op. 19
(アンコール)J.S.バッハ :パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825 メヌエットⅠ
R.シュトラウス:アルプス交響曲 op. 64
ドレスデンのオーケストラというと、昔は「いぶし銀」というイメージがあった。これは、東ドイツ時代にレコード会社あたりが作った、いかにもそれらしい惹句だったかもしれない。いまも来日するブロムシュテッとが振っていたと思う。
ホルンにはペーター・ダムという名手がいて、とても柔らかい音色だった。そういうこともあって、どちらかというと職人肌の渋いオーケストラというイメージがあったけれど、2007年に東京でマーラーの「復活」を聴いてイメージが変わった。美しく彫りの深い弦と、ピシッと決まる管楽器群。音色は明るくしなやかで、トップクラスのオーケストラだと感じた。 >> うまくて、深い。ティーレマンとドレスデンの「アルプス交響曲」の続きを読む
2016年11月15日19:00 ヤマハホール
F.シューベルト/4つの即興曲 第2番 変イ長調 Op.142 D935
F.シューベルト/ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D960
R.シューマン/幻想小曲集 Op.12 より1.夕べに 2.飛翔 3.なぜに
F.リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178 R.21
(アンコール)
F.シューベルト:4つの即興曲集 Op.90 D899 第3番 変ト長調
今年になってからヤマハホールのピアノリサイタルは3回目だ。
3月のティベルギアン、6月のガブリリュク、そして今回はシュトロイスニックと、共通点としては、とにかく名前が覚えにくい。
シュトロイスニックは、30を過ぎたばかりでこの世界では「若手」ということだろう。ヤマハホールは、謳い文句にあるようにピアノとホールが一体となった響きが魅力的だ。ただし、これは時に「音像が曖昧になる」という可能性もある。 >> 東京の「小ホール」って、充実してるなあ。の続きを読む