年明け早々、「マーケティング」が話題になってしまった。「ステマ」のおかげだ。通販サイトの騒動はネットの中の話だったが、例の「食べログ」のおかげで、妙な市民権を得た。違う、市民権というよりこれは「違法滞在」みたいなものなんじゃないか。そういう手法が「マーケティング」の中の一つというのは変だろう。
「ヤラセ」のような行為は本来「マーケティング」じゃない。そうしたことがステルス”マーケティング”という名になった時点で、マーケティング関係者にとってはえらく迷惑なのだ。
そもそも、マーケティングという言葉自体、世間ではちゃんと理解されていない。今だって「≒広告・プロモーション」だと思っている人はたくさんいる。それでもって、「ステマ」だ。マーケティングは、まあ「売りの仕掛け」であり、さらに「何でもあり」というように思われるのだろうな。
「振り込み詐欺」が「ステルス・トレーディング」だと言い張ったり、「ストーカー」が「ステルス恋愛」ち言い訳したら変じゃないか。それでも「ステマ」という、略称とともに「マーケティング」への誤解が起きるのだろうし、それ自体をどうにかしなくちゃいけないんだと思う。
そういう言葉のこときちんとしないと、痴漢した犯人が「ステルス愛撫」とか言い出しかねないんだから。
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駅構内のB倍ポスターに、こんなキャッチコピーがあった。
「インターネットを通じて、世界をより良くする」
GREEの企業広告だ。時期的にいって、リクルーティングを意識しているのだろう。ちなみにこのコピーは、いわゆる「コーポレートメッセージ」のようだ。隣には英語のポスターもある。
ただ、読んでみても「どうやって世界を良くするの?」ということはわからない。あまりにも抽象的だ。他のネット関連企業のステートメントだとしてもおかしくはない。
そんなことを思いながら、ホームに上がり電車に乗った。
額面広告はすべて「ドリランド」だった。GREEの提供するサービスだ。右も左も「ドッドッドリランド」。まあ、そのセンスとかは特にコメントしない。
ただ、ドリランドは紛れもなくGREEのインターネットサービスなので、先のメッセージに「ドリランド」を代入してみてもいいんだろう。すると、こうなる。
「ドッドッドリランドを通じて、世界をより良くする」
それで、世界が良くなるんだろう、きっと。
理念は素晴らしい。でも上半身と下半身の人格がネジレを起こしているような感じだ。
「ドリランドで、世界はこんなによくなった」
いつかの将来、そんな報告がされることを、僕たちは期待していていいのだろうか。

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(2011年11月16日)

カテゴリ:マーケティング
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「ソトコト」という雑誌の最新号の広告にこんなフレーズがあった。
『東京を離れる人がふえている。とくに「勝ち組」と呼ばれる若者が、大企業や都会を離れ、地方の人と新しい生き方を始めている。』
この号の特集は「移住大特集~日本の環境ユートピア」ということで、こういうコピーになったわけだ。
ソトコト、という雑誌は「LOHAS」がコンセプトだ。そういえば、このLOHASって意外とアルファベットの由来を知らない人もいる。学生にLife of~まで教えたら「Happy and Smile」と答えられたこともある。妙に納得感があるけど。
で、僕が気になったのはコピーの件だ。そうか、LOHASは「勝ち組」のものになったのだなあ、という感慨とでもいうのか。そもそもソトコトという雑誌に「勝ち組」という言葉が出てくることにも違和感はあるのだけど。
しかし、それは事実なのだろう。実際LOHASはカネがかかる。というか、時間も含めて余裕がないと難しい。
リーマンショック以降、米国で”comfortable food”が人気になっているというニュースを見たことがある。このcomfortableというのは心地よいというよりは「なじみ深い」とでもいうべきニュアンスで、ホットドックやハンバーガーのことだ。つまりjunk foodのことなんだけど、要するに不況となればまずは腹を満たすことが優先というなのだ。

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(2011年9月14日)

カテゴリ:マーケティング
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業界ではよく使われているのに、誤解にまみれている言葉というのがあって、マーケティングだと「ニーズとウォンツ」はその代表格かもしれない。
先に話題になった、インダストリアルデザイナーの奥山清行氏のこちらの講演でも、この言葉が出てきたのだが、ちょっと不思議な使われ方だった。少なくても「ウォンツ(原表記ワンツ)が和製英語」というのは、違うだろと。
しかし、この2つの言葉の混乱はコトラー本の訳にも由来すると思っている。マーケティングの旧約聖書とでもいうべき「マーケティング・マネジメント」には「ウォンツ」という単語は出てこないのだ。
じゃあ、どうなっているかというと、こう書いてある。
「マーケターは標的市場のニーズ、欲求、需要を理解しようと努めなければならない」
英語だと、needs ,wants, demandsだ。needsはニーズとカタカナだが、wantsは「欲求」になる。
ところが、needsという単語は往々にして「欲求」という訳語がつく。マズローの「自己実現欲求」というのもneedsの訳語なのだ。で、コトラーの本にもマズローは出てくるのだが「自己実現ニーズ」となっている。
そういうこともあって、ニーズが「必要なもの」でウォンツが「欲しいもの」という誤解もあるのだろう。その上、マズローを引っ張り出して「高次の欲求がウォンツ」とかいうのは、何というか、まあ単なる「嘘」だ。
そのあたりのことはネット上にも怪談が溢れているが、「本当の定義」も書かれているこちらのページあたりがまとめられていると思う。
しかし、奥山氏の講演を最後まで読むと単純な結論が出てくる。それは「ニーズやウォンツの定義を知らなくても凄いモノは生み出せる」ということだ。定義が重要なのではない。それは辞書の編集者が、文章を書けるとは限らないということと同じなのだ。



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フジテレビと民放業績についての記事だが、とりあえずデータ分析は最終回。
今日見ていただきたいのは、在京各局の年間視聴率(プライムタイム)を2004年と2010年で比較したものである。データの出所は、TBSのホームページだ。
まず一見するとわかるように、すべての局が視聴率を減少させている。6局合計が72.2→63.2だ。ゴールデンでも同じ傾向で全日はもっと厳しい(詳しくはこちらの下の方)。
で、もっとも派手なのはTBSで12.9→9.9と3ポイント減少。その逆がテレビ朝日で12.3→12.0と0.3ポイントに留まっている。
フジテレビは14→12.6だが、2004年から7年連続でいわゆる「三冠王」である。
ただし、この三冠も決して安泰ではない。それはまず、全体の視聴率が減少していること。それに加えて、他局が追い上げているということである。
そのことをわかりやすく見るのであれば、「6局内シェア」がいいのではないかと思って分析すると面白い風景が見えてくる。

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まず目立つのはTBSの減少である。テレビ東京も厳しい。そしてシェアを伸ばしているのがテレビ朝日。そしてNTVだ。つまり総視聴率減少の中で、踏みとどまっていることがわかる。特にシェアで見ると、上位3局は1ポイントの中にひしめいており、「3強」ということだ。
もっとも、これが売り上げに反映されないことも事実だ。セールスの現場でフジテレビの人気はまだまだあるわけだが、ジンワリと構図は変化している。かつては明らかに1馬身以上離していたけれど、半馬身から首の差にひしめいているのが今の視聴率競争の状況だ。
ここまでの数字を見てみると、フジテレビの課題は「民放全体の課題」であり「トップ企業ならではの課題」ということがわかる。

>> 数字に見る「フジテレビ騒動」の本質。その5の続きを読む