2020年03月アーカイブ

コロナウィルスをめぐる「空気感」は今までとどこかが違う。震災や台風のあとも、観光や外食に影響があったけれど、あの時の「被害と悼む」自粛ムードとは明らかに別の空気だ。

報道がおなじテーマ一色という意味では似ているんだけど、ふと気づいたのはNHKなども「L字」になってないこと。

被害や交通の状況を刻々と伝える画面は「有事な空気」を醸し出していたが、いまのTVはL字はもちろん編成もそのままだ。

L字というのは、それが「いつか終わる」ことであり、その後は復興などに向けて人々が動くという記号でもあったのだろう。しかし、今はどうしようもない。誰もが「被害者/加害者」になる可能性があり、不安が増幅すれば流言が飛ぶ。

そして、こういう時こそ、やたら「安心」を求めるのではなく、「信頼」が必要なのに日本人はそれが苦手ではないか?という問題提起をしたのが社会心理学者の山岸俊男氏だった。

「安心」したいけど、「信頼」はしない。日本だけでなく西欧以外は同様の傾向にある、という分析の詳細は本書を読んでいただくのが一番なのだけれど、今回気にしたのは「商人道」と「武士道」の対比だ。これはジェイン・ジェイコブス『市場の倫理 統治の倫理』で指摘されていることを引用なのだが、いまのような時にこの対比を見ると、とても面白い。

「市場の倫理=商人道」こそが求められるが、「統治の倫理=武士道は、事態をややこしくするように感じるのだ。

その対比を抜粋するとこんな感じになる。

 

【市場の倫理】 自発的に合意せよ/正直たれ/他人や外国人と気やすく協力せよ/創意工夫の発揮/目的のために異説を唱えよ/楽観せよ

【統治の倫理】 勇敢であれ/規律遵守/位階尊重/忠実たれ/剛毅たれ/運命甘受/名誉を貴べ

 

もうお分かりだと思うが、今回の感染拡大でいち早く行動したのは企業だった。しかも若くて機動力あるプレイヤーがまず動いた。一方で国の施策が発表されてから混乱がかえって高まっている理由はここにある。「頑張ろう」という話は全く効かない。国民一丸も意味がない。
アタマをつかって協力しよう、ということに尽きるわけで、ネット上でも善意の交流はちゃんと起きている。

おもしろいのは、こういう時に行動することもなくSNSなどでも政治を論じている人は、右も左もほとんど建設的でないということかな。結局それは統治の倫理を異なる角度からのたまっているだけだからなんだと思うとわかりやすい。

でも、僕はこの騒動後の日本を楽観している。統治の倫理が有事の際に不合理であることを学び、商人道を進もうとしている多くの人のうねりを感じているからだ。