2019年 11月6日 (水) 19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 作品30/ショパン:ノクターン作品27-2(ピアノ・アンコール)/ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・シュネル 憂いもなく 作品271
指揮:アンドレス・オロスコ=エストラーダ/ピアノ:イェフィム・ブロンフマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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何と言えばいいのか、とても音楽は堪能したんだけど、いざ評を書こうとするとなんだかすごく難しい。改めてウィーンフィルの響きは分厚く、なめらかで、華があり、ここぞという時の瞬発力は素晴らしい。などと書いても、それは誰にだってわかることだと思う。
指揮者は41歳なので、この業界では「若手」ということになる。指揮ぶりがよく見える席だったけれど、ストラヴィンスキーなどはかなり細かく丁寧に振っていたが、オーケストラとしては「わかってございます」という風情で、グングン進んでいく。
超高性能のスーパーカーを操っているつもりが、実は自動運転モードになっていました、という感じだろうか。
一方でラフマニノフについては、ブロンフマンがきっちりと曲を進めていく。つまり、今度は先導車がいて、そのアクセルやブレーキにピッタリ合わせていく感じになる。
ラフマニノフもストラヴィンスキーも、冒頭からどちらかというと淡々と進んでいくのだけれど、終曲のコーダからの爆発力が素晴らしくて、一気に聴衆をグイっとつかんで、「さらっていく」という感じだろうか。
その振り付けも、ピアニストとオーケストラがしっかり考えて演じていたように思う。
もっとも、この日の白眉がそれぞれのアンコールだったことも象徴的だろう。ショパンは、本当に滋味あふれる音色と節回しで、「このまま、何曲弾いてもいいんだから」という気分になったし、ポルカの響きはウィーンフィル以外の何物でもない躍動感。。
変拍子もこなすけど、やっぱりポルカ。さっきまで、生贄の音楽やっていたのに「憂いもなく」って。でも本当に素晴らしくて、これもまた、「もっとやっていいよ」と言いたくなる。
というわけで、ブロンフマンとウィーンフィルのしたたかさを、しっかりと感じさせる一夜だった。
頑張れ、アンドレス。
2019年11月4日(月) 16:00 サントリーホール
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35/マチャヴァリアニ:ジョージアの民謡よりDoluri(ヴァイオリン・アンコール)/マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
指揮:ヤニック・ネゼ゠セガン/ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ/フィラデルフィア管弦楽団
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まだ、指揮者は動かないけれど、ソロ・トランペットはゆっくり楽器を構える。ネゼ=セガンはまだ動かない。そして、おもむろに三連符が鳴り響く。ソロが終わり、全奏のアウフタクトで、おもむろにタクトが震えて、爆発が起きる。
以前このコンビを聴いたのは2014年来日時の『巨人』で、とてもいい印象だったんだけど、いま自分の書いたブログを読み返すと、アンサンブルには不安定さを感じていたようだ。ただ、今回聴いた印象だと、ネゼ=セガンとの信頼関係はとても強く、丁寧にオーケストラを仕上げて、相当高い水準になってきたと思う。
全曲が終わったあと、管のソリストを立たせる前に第一ヴァイオリンから順に握手をして、コントラバスまで歩んでいった。アダージェットが象徴的だけれど、まず弦楽器のアンサンブルを整えて、オーケストラを構築していく彼の姿勢が伝わってきたように感じた。
フィラデルフィア、というとかつての華やかなイメージが強いけれど、ホルンのソロを始めとして決してキラキラした感じではない。金管のなり方も、春にドゥダメルと来日したロス・フィルの方が、オルガンのように圧倒的だ。
でも、丁寧なアンサンブルで音楽を聞かせてくれて、ネゼ=セガンはマーラーの「うねり」をしっかりと描き出している。音楽の波にのまれていくような気持ちよさが、このコンビの持ち味なんだろう。
マーラーだからといって、過剰にグロテスクなイメージを強調することはない。5番という曲は無理に陰影をつけるよりも、どこか突き抜けた明るさがかえって不安な気分を煽る感じもするから、今日のような演奏はとても好きだ。
前半のチャイコフスキーは、たっぷりと歌い、かつ速いパッセージも精緻で、これほどの演奏はなかなか聴けないんじゃないかな。2月のコパチンスカヤはたしかに印象的だったし、タイプが違うので比べることもおかしいと思うけれど、「目眩ましの創作料理」に対する、「正攻法の一皿」というイメージだろうか。
それにしても、ネゼ=セガンとフィラデルフィアから伝わってくるのは、「熱い信頼」だろうか。「厚い」ではなく、「熱い」感じ。今度はベートーヴェンとか聴きたいなと思った。