想像以上、と言っては失礼だと思うけど、惹句にある「おちこぼれ兵士たちの活躍を描く痛快歴史エンターテイメント」というイメージとはちょっと異なる。松本清張賞受賞作だから、これがデビュー作ということになるんだろうけど、軽いようで深いと思うのだ。
たしかに、トーンは重くない。主人公は大阪の与力の跡取りだが、明治になってからは道修町の薬問屋で丁稚奉公をしている17歳。
軍歴がないのに、士族の血が騒ぎ西南の役に官軍の兵として加わる。当時、かつて賊軍と言われた藩の元士族が官軍として戦った話は知っていたが、この小説は一味違う。
この主人公は若くして、分隊長を任せられるのだけど、後の3人は年上の曲者ぞろい。ところが、このチームが小気味よく動き出し、キャラクターがイキイキとしてくるあたりがすごくうまい。
で、どこかに既視感があるなと思ったんだけど、これって「ドラゴンクエスト」とかの、ロールプレイングゲームのチームなんだな。主人公は勇者。ガタイのいい武闘家がいて、商人もいる。料理人というのはゲームでは見ない気もするけど、どちらかというと僧侶的な役だろうか。
成長譚ともいえるんだけど、どちらかというと敵キャラを倒してレベルアップしていく感じだろうか。そして、“ぱふぱふ”もちゃんとあるのだ。
もちろん戦闘のシーンもあるが、良く計算して抑えた筆致にしている。それを、リアリティの欠如と言う人もいるだろうけど、ぜひ無視してほしいと思う。
というのも、この小説はRPG的軽やかさだけではなく、「歴史の構造」を解きほぐして、日本の近代史を問い直すという、大きな挑戦をしていると思うのだ。それは、エピローグで明らかになるんだけど、単なる「新政府vs.幕府」的な図式ではなく、その後の日本の歴史について思いを馳せるような余韻があるのだ。
そして、ちらりと出てくる脇役が「あっ」と思わせる仕掛けになっていて、作中で明らかになる人もいれば、ちょっと想像力を働かせて、後から調べないと分からない人もいる。軍医さんとか。
とても次回作が楽しみだし、歴史小説の読者層をグッと広げると思う。