というわけで、本日は今年2月に読んだ本から。
振り返ってみると、最も印象的なのはヒュー・マクドナルド『巡り逢う才能』(春秋社)だった。1853年という1年の間に欧州で起きた音楽家たちの劇的な邂逅を描いた一冊だ。若いブラームスに、悩めるシューマン、胸を張るワーグナー。この本については、こちらのブログでも書いている。ただ、クラシック音楽に関心がないとととっつきにくいだろう。
で、意表を突かれて面白かったのが、ダン・アッカーマン『テトリス・エフェクト』(白揚社)だ。あの有名なゲームは、1984年に旧ソ連で生まれた。このタイミングが絶妙で、やがて来るペレストロイカやらなにやらの嵐の中で、世界規模のライセンス争奪戦になる。
冷戦時代のスパイ小説、というより下手なフィクションより全然面白い。
門井直喜『銀河鉄道の父』(講談社)は直木賞受賞作品で、高評価に付け加えることもない。ただ近年のこうした賞はどこか「功労賞」みたいなこともあるけれど、この受賞はまさに作品に対してもものだろう。同じ作者の『家康、江戸を建てる』(祥伝社文庫)も、お薦め。
長谷川晶一『幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』(インプレス)は、「ノンフィクション読後感大賞」とかあったらトップ争いをするんじゃないだろうか。スワローズファンはもちろんだけど、野球に関心のある人なら何かが響くはずだ。タイトルが素敵で、内容が裏切らない。
廣瀬匠『天文の世界史』は、予想外と言っては失礼だけれど、宇宙を通じて文化と科学の歴史を解き明かす一冊。科学者が書いた宇宙のホントは一味違って、占星術の伝播や宇宙をめぐる哲学まで縦横無尽。文系が読んでも理系が読んでも「ああ、そうなのか」となれる稀有な本だけど、新書でとっつきやすいのもありがたい。
佐光紀子『「家事のし過ぎ」が日本を滅ぼす』は鋭い指摘もあるんだけど、ロジックが時に甘かったり、タイトルの雰囲気で損をしている感じがする。
霧島兵庫『信長を生んだ男』(新潮社)は、弟の信行に焦点を当てた作品。山ほどある信長ものの中で異彩を放っていていた。
アビゲイル・タッカー『ネコはこうして地球を征服した』(インターシフト)は、既にネコに征服されている方々には強くお勧めする。これからも納得づくで被征服者としての人生を歩んでほしい。
服部龍二『佐藤栄作』(朝日選書)は、既に多くの証言なども出てきた現在となっては、あまり新しい発見は感じられない気もしたけれど、包括的な評伝はたしかに初めてかもしれない。
ただ、この時代を知りたいなら、2017年に出版された山崎正和『舞台をまわす、舞台がまわる 』(中央公論新社)に尽きるのではないだろうか。
で、この月に読んで「なんでこれ読んでいなかっんだ!」と驚いたのが、歌野晶午『ずっとあなたが好きでした』(文春文庫)だ。この作者は好きなんだけど、2014年の初版を見逃してたようで、昨年末に文庫化されていた。とにかく、ずんずんと読み進めて、この大仕掛けに唸ってほしい。相当精緻な仕掛けなので、もうあまり書かないし、邪推はなしに読めばいいと思う。
ネットのレビューにはいろいろ書いてあるけど、多くは同業者の嫉妬じゃないかと思うほどだよ。