皆が関心を持っているようで、実は関心を持ち続ける人は少ない。それが「雇用」にまつわる話だ。
じゃあ、どう言う時に関心を持つのかというと「就職が厳しい」とか「仕事を失う」というような時だけ、注目される。10年ほど前の金融危機の時も大騒ぎだった。そして、最近だと「AIで仕事がなくなる」というテーマは関心を惹く。でも、まずは自分の職種を探して「ああ、そうか」と焦ったり安心して、そのままになる。
で、この本はそうした話をきちんと分析して、ちゃんと見通してくれる。やっと多面的な視点からのいい本が出て来たなと思う。著者は、人事・雇用については第一線のプロフェッショナルだ。
まず、野村総研やマッキンゼー、そしてオックスフォードのフレイ&オズボーンの「予測」についてバッサリと斬っている。代替可能性だけに注目してコストを考慮していない、などという論点を研究者とともに明快に説明してくれる。
ただ、それだけではなくて現場に根ざした議論が続くのがとてもいい。しかも、それは「普通の仕事」の未来だ。いわゆる営業職や事務職、そして回転寿司の現場まで、さまざま現場の実情からAIの可能性と限界を考える。
そして、日本固有の事情、つまり人口や就労構造を踏まえた上でこれからの見通しを見ていく。それも「15年」と限定しているので、地に足のついた話を知ることができる。外国人労働者の雇用をめぐる話など、日本における状況をちゃんと見ているわけで、実はそうした議論をまとめて論じたものはなかなかなかった。
というのも「仕事とAI」をめぐる議論は、どうしても気宇壮大になる。それは、「仕事がなくなる」というレベルではなく、「機会が仕事をする未来」に人間が生きている意味を問われるからだ。
その辺りは米国をはじめとする海外の議論が先行していて、日本の現実に照らした話は本当に後手になっていたと思うが、ここで提示される「すき間労働社会」という着眼が一つのカギになるだろう。
また読んで感じたのは、「仕事と雇用」をめぐる日本のメディアのいい加減さだ。明快に書いているわけではないけれど、著者もそのことについては強い問題意識を持っているのではないか。というか、怒ってるのではと勝手に想像する。
失業率が上がると弱者にフォーカスして煽り立てる。AIの議論などにおいても表層的で、海外の研究を孫引きして「一丁上がり」のように仕立てている。それが一般紙ではなくいわゆる「ビジネスメディア」でもその程度だ。
そこに欠けているのは、「客観的なデータの分析」と「丹念に拾った現場の声」だ。つまり、いまのメディアには「鳥の目」も「虫の目」も足りないし、この本にはそういう視点がある。
「AIと仕事」をめぐるリアルな議論をするなら必携の本だろう。