広告を見ていると、ターゲットを読む癖がある。癖、というよりは半ば仕事だ。ことにTVCMはタレントや音楽などの情報量も多く、良くも悪くも「マス」を狙っているために、戦略が見えやすい。
いまは、企業の自社サイトや動画チャネルでCMを見られるから、大学の講義で読解するにも最適の素材だ。たとえば、ポカリスウェットの夏と冬の、一見バラバラのCMを見ていくだけで、商品ポジショニングとターゲットが浮かんできたりする。
ただ、こうしたCMが自分に、いや正確には自分たちの世代に向けられていると感じる時があって、それはそれで複雑な気持ちだ。
企業から、「あなたがお客さんだよ」と言われるのは、基本的に「買ってくれそうな人」ということだから、わるいことではない。呼び込みから声をかけられない、というのははなから諦められてるってことだよね。
ただ、「こうすればOK」って思われてるのか?という時もあるわけで、最近はそういう経験が多い。単純に書くと、「80年代」のネタが多く、細かく言えば「80年代体験」のようなものが狙われている感じだ。
具体的に言うと、40代後半から50代半ばくらいだろうか。若い世代から見れば、まあだいたい「バブルっぽい」ということなんだろう。この辺り細かく見るとキリがないけど、80年代を梃子にした広告はたしかに多い。
夏頃だったか、懐かしいクルマが出てきて「あの頃クルマは熱かった」というナレーション。何だと思ったら、トヨタの「カムリ」だった。まあ、たしかに企画書はよく見えるCMだったけど、これほどわかりやすくTVの向こうから「あんただよ」と言われるのは珍しい。
まあ、タイトルには「オジサン」と書いたけど、「オバサン」だって狙われている。少し前に「1980円」を1980年代にかけた携帯キャリアのCMがあったけど、あれも分かりやすかった。
1980年代に青春を過ごした人は、ちょうど家族の携帯電話コストで悩んでいる年ごろなのだ。「ああ、狙われてるな」と思って横目で見ていたら、矢はこちらにも飛んできた。ターゲットとは、まさに「標的」なんだなあとつくづく思う。
なんてことを考えていると、あの映画である。あのスキー映画だ。でも、どうなんだろう。「連れてって」と言われても、いったい誰を連れて行くというのか。というか、もう面倒くさくて、こっちの方が「連れてって」欲しいくらいである。
そして、ゲレンデの雪質よりも、近くの温泉の泉質が気になる。というか、こう書いて思ったけど、僕は中学の頃は滑ってたけど、20代になってスキーに行ったのは1度くらいしかない。ウワ、既に自分の過去を勘違いしていたのか、おそろしいことに。
正直言うと、80年代をネタにして、オジサンやオバサンが踊るのか?周りを見ていると、実感はあまりない。別に業界人でなくても、広告を裏読みすること自体が80年代の空気だったからだ。
それでも、踊らされるふりをするのも結構得意な人もいる。そして、企業の標的になるのが嬉しい人もいるから、こうしたCMが続くんだろう。もちろん、あのスキー映画をネタにしたキャンペーンも、若い人を視野にいれてるんだろうな、とは見当がつくし。
そういえば、上野で初めて生まれたパンダのトントンも1986年。新人で配属された夏に、会社を抜け出して見に行ったことを思い出す。ちゃんと動いていて、たしかに可愛かった。
もしかしたら、パンダも相談したのかな。「最近80年代ブームのようだし、いまが産み時かしら」とかブツブツ言ってる、パンダのカップル。
一番戦略的なのは、彼らかもしれないな。
追記:80年代を論じた本はいろいろあるけど、この堀井憲一郎氏の本が面白いと思う。タイトルに80年代という言葉はないけど、焦点はあの時代とそれ以降へのこと。