それはコンサートか、「ファンの集い」か。反田恭平リサイタル
(2017年9月2日)

カテゴリ:見聞きした

反田恭平ピアノリサイタル 2017年9月1日 オペラシティコンサートホール

武満徹:遮られない休息/シューベルト:4つの即興曲 op.90, D.899/ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ/リスト:ピアノソナタ ロ短調 S.178

【アンコール】ショパン練習曲集op.12-1/ドビュッシー:ベルガマスク組曲より「月の光」/シューマン(リスト編曲)「献呈」

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聴こうと思いつつ、うっかりするとチケットが入手できない人気で、この全国ツアーも完売だったようだ。11月に同じホールで小菅優のリサイタルがあり楽しみにしているのだが、さっき確認したらまだ席があった。

日本人ピアニストとしての人気は既にトップなのだろう。客の95%は女性で宝塚並みの比率で、平均年齢は歌舞伎座よりは若いけど想像以上には高い。

単純に世代的に見ると「無数の母に支えられた」感じで、もしかしたら羽生結弦が出るリンクはこんな感じなのか、そういえばジャニーズも人によっては自分の同世代が追っかけてるよな、とか。

いかん。マーケティングの仕事に関わっていると、開演前から「ムダな仮説思考」だけがアタマに渦巻く。

最後に供されたメインデッシュはリストのソナタだが、4年前に来日したユジャ・ワンが直前に変更した。それなりの覚悟がいる曲なのだろう。彼の今夏のツアーでも、札幌と東京だけだ。

でも、。そのリストは拍子抜けするどに、淡々として、でも堂々としている。難局に「挑みかかる」という力みがなくて、「さてどうするんだろ」と構えている自分が、いかに「普通の人」なのかと、思い知らされる。

いっぽうで、シューベルトは驚くような一瞬がたびたびあったけれど、後半になって少し集中力が落ちてきたように感じた。シューベルトの曲って、音の核が限りなく散らばっていくような感じで、ともすると「生きている鰻をつかまよう」と苦闘しているような風情になってしまう。

「鰻を好きにさせておきながら逃がさない」ような感じが、達人のシューベルトにはあるんだろうけど、まあそれはいつかの話だろう。
シューベルトをリストのように弾いて、リストをシューベルトのように弾けちゃう。そんな印象かな。

そして、一番驚いたのは、アンコールの「月の光」の冒頭だ。譜面の音を出すだけなら、誰だってできそうな曲で、息を呑むような響きが生まれる。ホロヴィッツが弾く「トロイメライ」を思い出したけれど、こういう人を天才というのだろう。

で、気になることは2つあって、まず彼はこれからどんな曲を弾いていくのか。いまはロマン派中心で、ベートーヴェンやモーツアルトはまだ想像しにくいのだけれど、バッハなどはおもしろいかもしれない。ただ、どんな道のりをイメージしているんだろう。

もう1つは、コンサートをどのような空間にしたいのか?ということかな。この日は誕生日ということもあって、ドビュッシーの後にあの「マングース」の着ぐるみが出てきて、MCがお祝いを述べて、来年のツアー概要が発表された。

本人の挨拶もあって、和やかな空気になっていたのだけれど、この日は「ファンの集い」だったのか、「コンサート」だったのか。
往年の「吉野家コピペ」のように、「刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか」とまではいかないけど、そういうことについてはマネジメントの人たちが考えることだろう。

しかし、あらためて気づいたけど、女性客って「ブラボー」って言わないんだなぁ。