直木賞が発表された。今年はたまたまだけど、事前に候補作を2作読んでいた。
以前に書いた『会津執権の栄誉』と、もう一冊は宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(角川書店)だ。
中央アジアのアラルスタンという国を舞台に、少女たちが活躍するエンタテインメント。冒険小説でもあり青春小説の香りもするけれど、そういう枠には入らない。やっぱり「エンタテインメント」としかいいようがない。
宮内悠介氏はSFというイメージが強いが、近著の『スペース金融道』は、「宇宙を舞台にした消費者金融」という設定で全体のトーンは軽い。とはいえ、設定がしっかりして、構成も凝っている。
この小説も、まず「アラルスタン」という設定がおもしろい。架空の国なんだけど、地図が書かれていてウズベキスタンやカザフスタンの近くのようだ。で、このアラルスタン。気づく方は気づくかもしれないが、「アラル海」の地に生まれた国なのだ。
実際のアラル海について、調べていただければわかるだろうが、かつては広大な内海だった。それが、旧ソ連の灌漑で干上がってしまう。
実際は塩を含んだ地で荒れているのだが、小説上はその地に国家が生まれている。しかし、そこには当然ながら「仕掛け」があり小説全体に影響する。
そして、この小説には「後宮(ハレム)というもう一つの仕掛けがある。かつては大統領の側室を囲う文字通りの存在だったが、いまでは女性の教育を行う場となり、そこには様々な国の人が集ってくる。
しかし、その国で政変が起きたのだ。そして、彼女たちが「国をつかさどる」という流れになっていく。
つまり学園ものの設定を活かしつつ、政治サスペンスや冒険譚の要素をうまく絡めていし、アラルスタン以外は実際の国だから不思議なリアリティもある。
単純な感想だけど、滑走するようなおもしろさだ。そして、この小説だけど、途中であることに気づく。
登場人物が、まるでアニメ映画のキャラクターそのものなのだ。そう思って読むと、シーンもアニメ的であり、もうそんなイメージがアタマの中に広がる。
出版社が角川ということもあるけれど、これはそもそもアニメを想定して作られているのではないか。というか、一度そう思うとそうとしか読めない。テーマには重いところもあるが、それを軽やかに描くならアニメは最適なのだ。
そう考えると、本作が直木賞を逃した理由も何となくわかる。小説として想像の余地がやや少なく、読み心地が滑らかすぎるのだ。選考委員の顔ぶれからも、そこが引っかかったのかもしれない。
とはいえ、おもしろいものはおもしろい。いや、本当にアニメにしたら盛り上がると思うし、「アラルスタン紀行」もありだと思うよ。