毎春、大学の講義で「自分の買い物」を振り返って分析する課題を出す。
一つ買ったものを挙げて、「どのような情報などが影響したか」「そもそも、そのモノを買おうと思ったのにはどのような理由や気分があったのか」の2点を書いてもらう。
この提出物を共有しながら講義を進めていくと、いろいろな消費者心理の仕組みが分かってくる。
「バンドワゴン効果」とか「稀少性」とか、「準拠集団」などがどんな風に影響するのか?
ケースを見ながら翌週にテクニカルタームのおさらいをするのだ。
企業研修でもおこなうことがあるけれども、いきなりセオリーを教えるよりも遥かにスピーディに学べると思う。
で、今年の春に気づいたのは「バイトの収入が入ったから」というご褒美系が多かったこと。4月の課題なので、春休みのバイトは確かに関係しているんだけど、今年は妙に目立つ。そうか!アルバイトの時給アップはこういうところに来ているんじゃないか。ラウンドワンの業績がいい、という記事がちょっと前にあった。あのように若い客が多い業態だから、バイトの時給上昇が直結するという解説だった。
しかし、ここまで人手不足なのに賃金は全体として上がっている感じがしない。アベノミクスによる、というか「アベノミクスという呪文が広まってからの景気回復」は、たしかに長い。
しかし、これもまた10年以上前の回復期と同じで「実感がない」というのが、枕詞だ。それには賃金が関わっているのだろうが、やはりプロも気になるようでそのものズバリのタイトルの本が出て話題になっている。
玄田有史らによる『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)は、この問題をきわめて多面的に論じている。内容についてだが、BNPパリバ証券の河野龍太郎氏によるコラムが親切すぎるほど丁寧で、読んだ気になってしまうほどなのだが、1つには統計上の問題が論点になる。
日本の統計は月給を基準にしているために、高所得の高齢者が引退して、非正規雇用者が増えても、統計上の賃金上昇には結びつかないというわけだ。
また、別の視点からの指摘ももちろんあって、企業がベア抑制をしたがる傾向やその背景についても書かれている。
そして、その構造がわかると、消費が弱いと言われる理由もわかってくる。
つまり、賃上げの恩恵を受けている人は、雇用への不安が根底にあるので消費に対して抑制的だ。一方で、解雇しにくい正社員に対しての賃上げに対しては、企業が抑制的になる。
つまり、二重の抑制が働くので消費はいま一つ伸びないのだろう。一方で、預金は1000兆円を越えた。
一つ驚いたことがあって、先のラウンドワンのニュースを学生に見せたのだけれど「ラウンドワン」という施設の存在を誰一人知らなかった。青学の行動範囲には、入ってこないのか。
そういえば甥っ子が中学生の頃友達とお台場の店舗に遊びに行ってた話を聞いたくらいで、僕も店舗を見たことがない。郊外の店が多いのだ。
おカネの使い方も本当に人それぞれになっていて、みんなが同じように「景気いいね」という感覚になること自体がもうないのかもしれない。