いまの日本だから面白い、若竹七海のハードボイルド。
(2017年2月2日)

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71PQMLlco8Lハードボイルドは難しい。

というのも、そもそも定義がわかったようでわからない。そう言われている類いの小説を何冊か読めば肌で感じることはできる。しかし、これがまた興味のない人にとっては、えらく縁遠いらしい。

簡単に言うと、どこまでいっても「わざとらしさ」がつきまとう。それが小説の魅力だと思う人もいれば、リアリティがないという人もいる。

まあ、そんなものは小説の根源に関わる論争で深入りする気はない。ただ、日本人が日本を舞台にしてハードボイルドを書こうとすれば、どうしてもこの「リアリティ」のことを考えなきゃいけないだろう。

ハードボイルドは、アメリカ生まれだ。ヘミングウェイの作風もそれに近いかもしれないし、映画の「カサブランカ」もそうかもしれない。しかし、小説しかもミステリー仕立てなら、チャンドラーの作風が典型だろう。

渋い男が、カッコいい台詞を吐き、酒やたばこの小道具にもこだわる。そして事件はいつもほろ苦い。

そして、日本に「移植」すると、どこかギクシャクする。そのギクシャクを承知で成功した1人が原尞だろうか。

でも、時代は変わった。いつしかハードボイルド的な世界が日本だけでなく米国でも希薄になったような気もする。

そんな中で、若竹七海の「葉村晶」のシリーズは、このリアリティ感が絶妙だと思う。

主人公は女性探偵。もう四十肩が気になる年頃だ。昨年「静かな炎天」という短編連作が話題になって読もうかと思ったのだが、一昨年の長篇「さよならの手口」も評判がいい。最近は年末のミステリーベスト10などもななめ読みしているせいかうっかり見逃していた。

ちなみに、この葉村晶のシリーズ自体は相当ひさびさの登場だ。

和製ハードボイルドというと、新宿かその界隈に住む男の一人暮らしが最も分かりやすい設定だと思うけど、彼女は調布のシェアハウスにいる。それも古びた民家だ。しかも探偵を休業し、ミステリ専門店でバイト中という緩い設定である。

しかし、これはハードボイルドだ。最初にも書いたとおりなかなか言葉では言えないけれど、全体を漂う空気感と、ある意味小説ならではの大仰な設定。登場人物のわざとらしいまでの癖づけ。

これを読んで、後味がいま一つという人は「苦味」というものが嫌いなのだろう。もちろん、小説がすべて宮部みゆきのように行くわけではない。というか、最近の彼女の作品も十分にほろ苦いが。

若竹七海の小説は、浮世離れしているようで、しっかりと今の日本を描いている。しかし、過剰に批評的にならない。

スーッと読めてしっかり残る。そんなミステリーを求めている人にはぜひお薦めしたい。