ブルックナーという作曲家がいて、結構人を選ぶ。好きな人は好きだが、嫌いな人にとっては退屈だろう。
僕はそれほど好きではない、と書いてみたものの昨年もわざわざバレンボイムを聴きに行っている。まあ、なんというかある時に無性に聞きたくなったりはするのだ。
ただ、本当に熱心なファンではないのだろうなと思う。というのも、好きなディスクはカラヤンとかショルティだ。「本当の愛好家」は、ヴァントや朝比奈隆を好むらしい。
あと、熱心なファンが好む「9番」が今ひとつ苦手だ。
で、その理由はわかっている。たしか、高校が大学の頃に映画館で見た、とある映画の「予告編」に第2楽章のスケルツォが使用されていたのだ。
このスケルツォは、ブルックナーの中でも妙に暴力的なところがある。7番のようにグルグルと空が回るような「天の音楽」の感覚は大好きなんだけど、これは「地の音楽だ」。それが3拍子だから、3本足の怪物がドタバタしているような感覚になる。
そして、その映画は日本映画だった。ただ覚えているのは「琵琶湖で女がマラソンをしてる」ような話だったと思う。何か、走る女のバックにブルックナーが響くのだ。
あの頃はそれなりに映画を見ていたので、この予告編も複数回見たのかもしれない。そして、本編は見ていないのだが、何だか「イヤーな感じ」の印象がある。それ以来、ブルックナーの9番はどうも苦手なのだ。
しかし、そんな僕の記憶は本当に正しいのだろうか?
先日、ふとそのことが気になった。きっかけは、たまたま耳にしたブルックナーだ。
「映画 琵琶湖」で検索してもわからないので「映画 琵琶湖 マラソン」で調べてみると、出てきた映画がある。
「幻の湖」という日本映画で、こちらがウィキペディアのページだ。1982年だから、高校を卒業した年だ。それによると「ネオ・サスペンスと称し、雄琴のソープランド嬢の愛犬の死を発端とする壮大な物語が展開される大作」だったそうだ。そして、「公開から2週間と5日(東京地区)で打ち切られる」とあるから、早い話が大失敗だったらしい。
難解というより支離滅裂であることは、ウィキペディアの記事でもよくわかる。なんで「マラソン」なのかと思ったら、「ソープ嬢道子は、愛犬シロと琵琶湖の西岸でマラソンをするのが日課」というあたりのシーンが印象に残ってたのだろう。
で、その愛犬が殺されたことの復讐をしようとするのだが、そこで出てくるのが「かつて道子の店にソープ嬢として潜入していた米国の諜報員ローザ」という辺りで、アタマがクラクラする。
その辺りの解説は、このページに詳しい。映画通の間ではよく知られる怪作らしい。ちなみに、本編の映画はリストの「前奏曲」らしく、ブルックナーは「とりあえず予告編にあてるクラシック」だったのだろう。「カルミナ・ブラーナ」の冒頭や、ヴェルディのレクイエムの「怒りの日」などはよくあるが、よりによってよくもブルックナーの9番を選んだものだ。
調べてみると、「ニコニコ動画」に予告編が残っていた。最初の方は和笛の音だが、1分45秒くらいで突如ブルックナーが鳴る。
しかし、本編を見てないのに何だか禍々しい印象だけが残り、かつブルックナーの9番を敬遠させることになったわけで、凄い映画ではあるけれど。見てみたいような見たくないような。