2016年11月アーカイブ

鳥インフルエンザが発生したらしい。

以前に比べれば、極端な大騒ぎにならないように感じる。ただ、それは東京にいるからだろうし、何より現場の方々の対応がしっかりしてきたからだろう。

とはいえ、何十万という単位で殺処分になるのだから、相当に辛いことだと思う。店に行けば、当たり前のように質のいい食肉が手に入る社会にいると、そこに至るまでのプロセスを考える機会は多くない。

ただ、鳥インフルエンザの話を聞くと思いだすことがある。

それは、12年前に日本で初めて感染が確認されて大騒ぎになった時のことだ。それは、自分が会社を辞めることを決めて、既に休みを取っていた夏のことだった。

とある新聞社に入って、関西に赴任していた2年目の記者と会っていた。彼が学生時代に、ちょっとした縁があったのだ。

そこで印象に残る話をした。

この年の前半に、関西のとある養鶏場で大量の鶏が感染する事件があったのだが、彼はその時に現場へ一番乗りしていたらしい。何かのきっかけで現場に行った時は、まだ警察や自治体は来ていなかったための、そのすさまじい現場を目の当たりにしたという。

その後の現場は、もちろんKEEP OUTということだったので、その現場を知るメディア関係者はそうそういなかったらしい。

そして、そのシーンは彼にいろいろなことを考えさせたという。僕は退社する直前だったのでよく覚えている。 >> 会社を辞めた年の、鳥インフルエンザの記憶。の続きを読む



先日区役所に用事があった。

「132番でお待ちの山本さま~」という言い回しが飛び交っている。

「136番のカードをお待ちのお客様~」と「正しい日本語」だと思ったら、合成音声だった。まあ、そういうものだろう。

旅先では、客商売ならではの謎の言い回しをよく聞く。先日泊まった旅館では、朝食の案内がいちいちこんな感じだった。

「こちらは湯葉となっておりまして、よろしければ火の方をつけさせていただきます」

ご飯も味噌汁も、すべてのものが「なっておりまして」、「おかわりの方」がいただけるそうだ。ありがたい。

そういえば、今春に京都の寺社で期間限定の特別公開を中心に回ったのけど、こういうところも、また独特だ。

「こちらは、人数を限らせていただき、お一人様ずつの入場という形になっております。靴はお脱ぎ頂くという形になっておりますので、ご協力の方をよろしくお願いします」古都がそうなんだから、もう仕方ない気もする。

「~という形」「~の方」「~になっております」という言い回しは、「正しくない」感じがするし、そう思う人も多いようだけど、多分これからなくなる気もしない。

それにしても、なんでこういう言い回しが増えてきたんだろう。

まず、共通するのは「婉曲」ということだ。「ご飯です。おかわりはいつでもお申し付けください」でいいんだけど、それじゃ何かが足りないと思うのだろう。 >> 「という形になっております」的な言い回しで思うこと。の続きを読む



11月の雪にも驚いたが、この雪の中、有楽町の宝くじ売り場には「年末ジャンボ」を求める行列ができているというニュースを見た。いや、筋金入りとはこういうことなんだろう。

近年のことだけど、この行列ができる頃になると決まったように「どうして?」と書く人が増えてきた。批判、というほどじゃないけど「それ、違うでしょ」というトーンで、苦言というのか詠嘆というのか。

つまり、確率的は相当低い上に、しかも特定の売り場のとある窓口で買いたいがために、長時間並ぶって、あまりに非合理的だろという話だ。

まあ、そりゃそうだと思いながら、そういう合理的すぎる思考というのも、落し穴があるんじゃないか、と感じることもある。

行列する人を「理解できない」というのは簡単だ。まあ、実際はそういう人が多いだろう。あれだけ並ぶと錯覚するけれど、その何百倍もの人がその周りを行きかっているわけで、行列する人は実は少数派のはずだ。

だから「理解できないよなあ」で終わっちゃうかもしれないけど、「実際に並ぶ人がいる」という事実に目を向ければどうなんだろう。

「人間は結構非合理的に行動するし、実はそこに商いのチャンスはある」と考える人の方が、ビジネスには向いているんじゃないだろうか。

考えてみれば、初詣の時だって、混んでいる神社では相当待つ。ニューヨークのタイムズスクエアのカウントダウンだって寒い中、立ちっ放しで何時間も待つ。

もしかしたら、当たりくじの可能性がある宝くじの方がマシかもしれない。 >> 「年末ジャンボに並ぶ人をどう思いますか?」と、採用面接で聞いたみたい。の続きを読む



img_2124ザルツブルク・イースター音楽祭 in JAPAN オーケストラ・プログラム

シュターツカペレ・ドレスデン 演奏会

指揮:クリスティアン・ティーレマン

ピアノ:キット・アームストロング

2016年11月22日 19:00 サントリーホール 大ホール

 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op. 19

(アンコール)J.S.バッハ :パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825 メヌエットⅠ

 R.シュトラウス:アルプス交響曲 op. 64

 

ドレスデンのオーケストラというと、昔は「いぶし銀」というイメージがあった。これは、東ドイツ時代にレコード会社あたりが作った、いかにもそれらしい惹句だったかもしれない。いまも来日するブロムシュテッとが振っていたと思う。

ホルンにはペーター・ダムという名手がいて、とても柔らかい音色だった。そういうこともあって、どちらかというと職人肌の渋いオーケストラというイメージがあったけれど、2007年に東京でマーラーの「復活」を聴いてイメージが変わった。美しく彫りの深い弦と、ピシッと決まる管楽器群。音色は明るくしなやかで、トップクラスのオーケストラだと感じた。 >> うまくて、深い。ティーレマンとドレスデンの「アルプス交響曲」の続きを読む



511lu4dfolタイトルには「皇室外交」と言う言葉が入っているけれど、そもそもこの言葉自体が宮内庁的には「非公認」らしい。皇室は、海外に訪問したり賓客を迎えたりするが、これはいわゆる「外交」とは異なるということなのだろう。

しかし、実質的に皇室が海外諸国との関係に及ぼしている役割は相当にあるはずで、本書ではその辺りの事情をていねいに書かれている。

著者の西川恵は新聞記者の外信部で長年勤められていた方だが、「エリゼ宮の食卓」という名著がある。これは、フランスがエリゼ宮で晩餐会をおこなう時のメニューを分析することで、時の外交姿勢を解き明かそうとしたユニークな本だった。

本書でも、その辺りの話から始まる。皇室主催の晩餐会がフランス料理で、ワインもフランスの最高級のものを供する理由などから始まるので、とっつきやすい。

そして、日本の皇室だけではなく、海外の首脳や王室のエピソードも豊富だ。

たとえば、ホワイトハウスの晩餐も以前はフランス料理だったが、現在は米国の郷土料理などを意識したメニューに変わったという。

それはクリントン政権の時のことだが、先導したのはヒラリー夫人だったようだ。この辺りにも、いろいろな意味で政治家らしさを感じる。

あるいは、フランスのオランド大統領の「パートナー」として来日した女性にたいする皇后の気遣いなども印象的だ。

また、若い時に昭和天皇や今上天皇が欧州で見聞を広めたことが、後に及ぼした影響も興味深い。一方でオランダや英国が、第二次世界大戦で日本の交戦国であり、その爪痕が近年まで残っていた中で皇室の果たした役割は、やはり「外交」なんだと思う。 >> 外交を知ると日本が見える。「知られざる皇室外交」の続きを読む