インターネットの時代になって、いろんな人が専門家のようなことを言うようになった。ただし、どんな分野でもそうなるわけじゃなくて、いきなり「ステンレスの冶金」について語る人が増えたわけじゃない。そもそも、冶金を「ちきん」と読んでしまう人だっているだろう。
そんな中で「マーケティング」については、語る人が増えた。そして、その際にはいろんな数字が引用される。ところが、この数字というのが曲者だ。
この本は、そういう「マーケティングの谷間」に落ちている「生半可な常識」を鮮やかに斬っていく。
たとえば、典型的な「若者の○○離れ」なんかは、いい例だろう。ビールや海外旅行、クルマ、そして果物などの例を見ていくと、意外な背景が見えてくる。
「今の若者は」と下手に言うと、「そんなのギリシャ時代から」とか反論されちゃうので、一生懸命データを出して来たら、それがますます変だったというような話だ。
「保育園建設に反対してるのは誰か」などは、データで見ると納得するし、イメージが先行していることがわかる。また「飲酒やめると早死にするって本当?」というのは、典型的なサンプルの読み方違いの可能性がある。いわゆる「ドクターストップ」を受けている人が、相当いるかもしれない。
いろいろな会社がマーケティングを強化する一方で、半端なマーケティングモドキに嵌っているところもあって、これが一番まずいだろうなと思うんだけど、そうならないための基本テキストとしてもこの本はいいと思う。
また、ここに出ている記事を読んで、「真実」を類推させる演習本にも使えると思う。学生なんかにも向いてるんじゃないだろうか。
それにしても、なんでこういう半端な常識がまかり通るのか。一番大きい理由は、メディアが「文系ばっか」ということだろう。もちろん理系もいるし、数字のわかる文系もいるんだけど、そもそも「数字が苦手で言葉の世界に入った」ような人が、いまの幹部には多い。
だから確率計算もできないし「危ないものは全部禁止」みたいになる。
その上、テレビニュースの街頭インタビュー。あんなに適当な「世論」なんてあるわけがなく、編集でいくらでもなる。ただし、いまのテレビの主な視聴者である高齢者には、「わかやすさ」が一番だ。
数字を見るのはいいけれど、半端な読み込みで損をしている人や、失敗している会社は結構あるだろう。統計を学ぶ以前の、ユニークなヒントが詰まっている本だと思う。