クラシックのコンサートは妻と行くこともあれば、1人のこともある。
1人の時は、シェーンベルクのオペラとか、ベートーヴェンの室内楽とかさまざまだけれど、ショスタコーヴィチやブルックナーも入るだろうか。
今年も行ったが、男の客がやたらと多い。バレンタインデーにバレンボイムを聴きに行ったら、チラホラと女性一人客もいたが「間違えてはいないか?」と気になってしまう。
この小説の主人公の女性も、1人でブルックナーのコンサートに来る。そして、いかにもな男性から声を掛けられて彼らの仲間「ブルックナー団」とのつき合いが始まっていく。
この辺りのニュアンスは、ある程度クラシックを聴いて、コンサートまで行き、かつネットでそれなりの情報を得てないとわからないかもしれない。
というか、「ブルックナー団」というタイトルで、何かを感じない人には縁遠いかもしれない。
小説は、彼らの現実世界のつき合いを書いているが、主役はもう1人いる。
ブルックナーだ。
男たちは、ブルックナーの伝記を書こうと試みている。そして、その書きかけを主人公の元に送る。彼女がそれを読んでブルックナーへの理解を深めながら、読者もまたブルックナーの人生に思いを馳せる。
なかなかに巧妙なつくりなのだ。
ブルックナーは不器用だ。そして、ここに出てくる現代の日本人たちも決して器用ではない。男性は、わかりやすく言えばオタクだ。でも、だから不器用なブルックナーに共感する、という安易な設定ではなく、史実を重ねながらジワジワと問いかけてくる。
押しつけがましさはなく、それでいて作者の優しいメッセージも感じられる。
そして、読んでる途中は、「読者を選ぶ本だな」と思っていたが、そんなことはないないだろう。というのが読後の感覚だ。
クラシックに興味があって、ブルックナーも聴いてみたいと思う人には絶好の入門書のようにも思える。
そして、1人でコンサートに行って、周りを見回してニヤニヤしてみたい衝動にかられるかもしれない。
ベタではあるが、この本はブルックナーを聴きながら読むのがまたいいと思う。僕は、交響曲3番を思わず聴いてしまったが、これはストーリーの中でも重要な位置を占める。セルの演奏が、個人的には好きだ。
ブルックナーという「人」を素材にして、こんな小説ができるのって、世界の国でも日本だけかもしれない。というか、ブルックナーを通じて、21世紀の日本を語るというユニークな試みだ。この話、ドイツなど欧州の人はどう感じるのか。それもまた、気になってくる。