小説における”完璧な出鱈目”。ブコウスキーの「パルプ」
(2016年9月15日)

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71o9xhnawzl民進党の代表が決まった。

で、それはさておき(だって書くことがないし)、ちょっと変わった小説の紹介を。

ブコウスキーが1994年に書いた遺作で、最近復刊された「パルプ」が、何だかすごい。

探偵小説というのは、いろいろ読んできたが、この「パルプ」をそこに含めていいのか、よくわからない。とりあえず主人公が探偵ではあるけれど、何らかの謎解きがあるかというと微妙だ。

ハードボイルドのようにも見えるが、ある意味ではハードボイルドというカテゴリー自体の皮肉にもなっている。「あんなカッコいいやついないだろ」という開き直りなんだろうけど、かといってこの主人公は相当ひどい。

キャラクターも出鱈目で、ストーリーも滅裂で、ところが破綻しているかというとそうでもない。ストーリーは、とても説明できないので、出版社の紹介をとりあえず引用するとこんな感じだ。

『バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早 速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する。伝 説的カルト作家の遺作にして怪作探偵小説が復刊。』

なんだこれは、と思われるかもしれないが、読んだ感想も全く同じ。

「なんだこれは」としか言いようがない。

ところが、この出鱈目ぶりが、実に完璧なのだ。変な表現だと思うが、そうとしかいいようがない。

話はぶっ飛んでいる。そして、途中では謎解きのかけらも感じさせる。そういえば、それなりの伏線もあるので結構回収されるのでは?という期待も膨らむ。

しかし、この小説は、どこまでも読者を翻弄する。エンディングに至ってどう感じるかは人次第だけど、「なんだこりゃ」と思いつつも「ああ、面白かった」という気分になる。少なくても僕はそう感じだ。

どこに行くかわからないストーリーでありながら、じゃあこんな小説が書ける人が他にいるのか?というと書けないだろう。

だから「完璧な出鱈目」という感じがする。あるいは「精緻な壊れもの」と言ってもいい。明らかに変なのに、作品としては妙に完成している現代芸術のオブジェを見ている感じに近いかもしれない。

そんな小説だから、池井戸潤や原田マハがお好きな人には、お薦めしない。多分、怒ってしまう可能性が高いと思う。色々読んだけど、「なんか凄い小説ってないのかな」という人は一読してみてはどうだろうか。