来日したら必ず聴きたい。幸福感のあるうまさ、ガヴリリュクのピアノ。
(2016年7月13日)

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gab2アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノリサイタル

2016年7月12日 19:00 ヤマハホール

シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120,D664

ショパン:幻想曲 ヘ短調 Op.49/ショパン/夜想曲 第8番 変ニ長調 Op.27-2/ポロネーズ 第6番 変イ長調 「英雄」 Op.53

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第3番 イ短調 Op.28

ラフマニノフ:練習曲集 「音の絵」 Op.39より  第1番、第2番、第5番、第7番、第9番

.バラキレフ:東洋風幻想曲 「イスラメイ」

(以下アンコール)

シューマン:子供の情景 Op.15-1 第1曲 見知らぬ国と人々について
フィリペンコ:トッカータ
シューマン:子供の情景 Op.15-7 第7曲 トロイメライ
メンデルスゾーン=リスト=ホロヴィッツ:結婚行進曲と変奏曲
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16より 第3番

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単に「うまい」ということはもちろんなんだけれど、全体にゆとりがあって、心地よく聴いていられることが、ガヴリリュクの最大の魅力だと思う。

スーツ姿ででゆったりと構えて、少し神経質そうに眼鏡を拭いて、おもむろに弾き始めるといきなり別世界が広がる。姿は端正で、妙なアクションはないが出てくる音楽は絶品だ。

シューベルトはきれいに歌い、ショパンは多彩な音色を響かせる。

後半のロシア系作品は、激しく情熱的だが、「これでもか!」という嫌味がない。

ダイナミックレンジが相当広いが、演奏効果を狙っているのではなく、とても自然だ。

最後の「イスラメイ」からアンコールになだれ込み、フィリペンコのトッカータ辺りで唖然とさせる一方、シューマンでは客席を魔術にかけたような調べを奏でる。

そして、ガヴリリュクは相当ホロヴィッツを意識している、というか好きなんだろうなと思う。メンデルスゾーンの結婚行進曲と変奏曲は、ホロヴィッツが自ら編曲して十八番にしていたが、「イスラメイ」も録音が残っている。

また、アンコールにトロイメライをスッと挟み込むのも、ホロヴィッツの得意技だった。ユジャ・ワンやランランも、ホロヴィッツ編曲の作品をアンコールで弾いているが、この世代は本当にホロヴィッツの影響を強く感じる。

ホロヴィッツの呪縛は相当強く、彼を目指して破綻したピアニストは多いという。そして、死後四半世紀が経って、「曾爺さん」の遺産を軽々と弾くようになった。スポーツ記録のように数字に表れるわけではないが、ピアニストのスキルはもの凄く上がっているように感じるし、ガヴリリュクのような演奏を聴けることが本当に幸せで、来日したら、次もぜひ行きたいピアニストだ。

もう、うまいのは当たり前。彼のピアノを聴くと、幸福な気持ちになれるから。