2016年7月12日 19:00 ヤマハホール
シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 Op.120,D664
ショパン:幻想曲 ヘ短調 Op.49/ショパン/夜想曲 第8番 変ニ長調 Op.27-2/ポロネーズ 第6番 変イ長調 「英雄」 Op.53
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ 第3番 イ短調 Op.28
ラフマニノフ:練習曲集 「音の絵」 Op.39より 第1番、第2番、第5番、第7番、第9番
.バラキレフ:東洋風幻想曲 「イスラメイ」
(以下アンコール)
シューマン:子供の情景 Op.15-1 第1曲 見知らぬ国と人々について
フィリペンコ:トッカータ
シューマン:子供の情景 Op.15-7 第7曲 トロイメライ
メンデルスゾーン=リスト=ホロヴィッツ:結婚行進曲と変奏曲
ラフマニノフ:楽興の時 Op.16より 第3番
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単に「うまい」ということはもちろんなんだけれど、全体にゆとりがあって、心地よく聴いていられることが、ガヴリリュクの最大の魅力だと思う。
スーツ姿ででゆったりと構えて、少し神経質そうに眼鏡を拭いて、おもむろに弾き始めるといきなり別世界が広がる。姿は端正で、妙なアクションはないが出てくる音楽は絶品だ。
シューベルトはきれいに歌い、ショパンは多彩な音色を響かせる。
後半のロシア系作品は、激しく情熱的だが、「これでもか!」という嫌味がない。
ダイナミックレンジが相当広いが、演奏効果を狙っているのではなく、とても自然だ。
最後の「イスラメイ」からアンコールになだれ込み、フィリペンコのトッカータ辺りで唖然とさせる一方、シューマンでは客席を魔術にかけたような調べを奏でる。
そして、ガヴリリュクは相当ホロヴィッツを意識している、というか好きなんだろうなと思う。メンデルスゾーンの結婚行進曲と変奏曲は、ホロヴィッツが自ら編曲して十八番にしていたが、「イスラメイ」も録音が残っている。
また、アンコールにトロイメライをスッと挟み込むのも、ホロヴィッツの得意技だった。ユジャ・ワンやランランも、ホロヴィッツ編曲の作品をアンコールで弾いているが、この世代は本当にホロヴィッツの影響を強く感じる。
ホロヴィッツの呪縛は相当強く、彼を目指して破綻したピアニストは多いという。そして、死後四半世紀が経って、「曾爺さん」の遺産を軽々と弾くようになった。スポーツ記録のように数字に表れるわけではないが、ピアニストのスキルはもの凄く上がっているように感じるし、ガヴリリュクのような演奏を聴けることが本当に幸せで、来日したら、次もぜひ行きたいピアニストだ。
もう、うまいのは当たり前。彼のピアノを聴くと、幸福な気持ちになれるから。