2016年6月22日 13:00 神奈川芸術劇場
«DON JUAN» un Spectacle Musical de FELIX GRAY/International Licensing & Booking of «Don Juan» NDP Project/潤色・演出:生田 大和
色男とかプレイボーイという言葉が死後になる中で、象徴的な固有名詞といえば「ドン・ファン」だろう。17世紀スペインの伝説上の男だが、モーツアルトのオペラでは「ドン・ジョヴァンニ」、つまりイタリア語になる。
この「ドン/Don」はスペイン語系の尊称なのだが、そこはそのままにして、「ドン・ジュアン」となるんだけれど、このプロダクションはフランスからのもの。
考えてみると、英語なら「ミスター・ジョン」になるが、そもそもMr.はファーストネームにはつかない、とかいう話を置いておいても、これは相当締まらない。田舎のお父さんのようだが、調べてみると三重の方にそういうホームセンターがあるようだ。
で、「ドンファン」の話はいろいろとアレンジされているが、すごく短く言うと、ドンファンがある娘にちょっかい出したことで、怒った親父の騎士団長に決闘を申し込まれるが返り討ち。その後もチンタラ遊んでいたが、やがてこの親父に呪い殺されるというような話だ。
ただ、この「ドン・ジュアン」は、すこしよろめく。それも、真実の愛によろめいていく。もともとは、「俗の象徴」であるドンファンを、「聖の象徴」である騎士団長の亡霊が裁くという構造になっている。それはそれで面白いのだけれど、21世紀のプロダクションとしては、少しいじってみたくなるのもよくわかる。
フラメンコのリズムを活かしながらも、流れるような構成でキャストの安定感も抜群だ。主演の歌唱は素晴らしいが、騎士団長の亡霊が馴染んでくると妙に魅力的に見える。チームとしても引き締まっていると思う。
ただ、潤色に関してはもう少し宝塚ならではの「けれん」を出してもよかったかもしれない。小池修一郎ならどうだったんだろう。
最近の宝塚で、フランス・ミュージカルの上演というと「ロミオとジュリエット」が印象的だった。既に「エリザベート」のケースもあるが、欧州大陸系の作品は、ロンドン/ニューヨークのダイナミックな世界よりも、より繊細で流麗だし、宝塚に合っているように思う。これからも、おもしろい作品を見つけてくるのではないだろうか。
ちなみに、この作品では「十字架」がちょっとした演出上のスイッチになっていると思う。途中で、とある出演者が十字架を捨てて、また終盤で手にする。その間は、ちょうどドン・ファンが、「俗界の愛」に目覚めようとするシーンと符合する。
そして、再度十字架を手にするところでは背景がステンドグラスになって、「聖なる力」が甦ったことを暗示しているように読めるのだ。
因みにこの日は、早霧せいな率いる「ローマの休日」チームに、元花組トップの蘭寿とむまで臨席だった。こういう機会は初めてだったが、なんの指示がなくても皇室を見送るかのような整然としたファンの姿にあらためてビックリ。