何をしに行ったかというと、ひたすら教会を巡るのだ。世界遺産候補になったことでも知られる五島列島の教会群は、禁教の解けた明治以降に次々と建設され、今でも多くは「現役」の教会として使用されている。
そのため、一部の教会を除いては堂内の撮影はできない。まさに空間体験の旅でもある。
五島列島は南に福江島という大きな島があり、ここには飛行機も到着する。北の中通島もそれなりに大きく宿泊施設もあるのだが、もっとも見たい教会はその中間の島々にあり、まずはプランニングからして結構苦戦した。
金曜の朝に福岡経由で、プロペラ機に乗り替えて、福江島に着く。ここからクルマを借りて、まず福江島の教会を巡って島内で一泊。
翌日は午前中に海辺を歩いたりして、午後から北へ向けて教会クルーズのツアーに乗る。久賀島の旧五輪教会堂と奈留島の江上天主堂を巡り、北の中通島へ向かいここで一泊。翌日の午前に幾つかの教会を見て、午後長崎市にわたりその日のうちに帰京した。
どの教会も印象的だが、まず旧五輪教会堂の静謐さはもっとも印象的だろうか。1881年の建立だが、その後老朽化で解体される時に、その価値に気づいた人によって保存がおこなわれて、移築された。現在の場所は海沿いなので、船で近くに接岸することになる。
この教会は堂内の撮影もできるのだが、天井の曲線が独特の柔らかさを醸し出している。木造教会なのだが、この天井はまるで船の舷を思い起こす。船をひっくり返して組み合わせたような感じなのだが、施工に関わったのが地元の船大工だと聞いて納得する。
全体に和洋折衷の様式になったいて、窓枠は木製の「引き戸」だ。その向こうに、海が見える。
もう一つ強く印象に残ったのが、頭ヶ島天主堂だ。こちらは、五島の西北端にある島にあるのだが、石造りだ。この地元で採取される石を使っているのだが、このエリアで石像は珍しい。重厚なレンガ造りか、優美な木造のどちらかであることが多い中で、異彩を放っている。
長崎の教会群は世界遺産候補となりながらも、今年に入ってから推薦取り下げになるなど揺れている。その辺の事情はこのレポートがわかりやすい。カトリック教会は「バチカン市国」をはじめとして、相当の数の世界遺産が既に登録されている中で、独自性を訴求するのは大変かもしれない。
ただし、この教会群は一度は行く価値があるだろう。むしろ世界遺産になる時期が遠のいた今こそチャンスかもしれない。そして、できれば個人でプランニングした方がいい。1人でもいいだろう。今回はツアーの船は計6人で、他の教会はすべて僕と妻だけだった。ただし、ちょっとタイミングがずれれば団体と一緒になるところだったので幸運だったと思う。
こういう旅は、できる限り静かに過ごしたいし、時間に追われるのはきつい。行った瞬間に「おお!」というような体験ではないが、時が経ってからジワジワと感動が反芻される。そんな体験ができる、島の教会の旅だった。