2016年06月アーカイブ
泡坂妻夫という名を聞いて、「そうそう」と思う人は少ないかもしれない。1933年、つまり昭和一ケタの生まれで、2009年に75歳で没している。
東京神田の紋章上絵師の家に生まれて、家業を継ぎながら作家活動をしてきた。また奇術に造詣が深く、作品にもよく登場する。ミステリー小説界では、一目置かれる存在だった。しかし、彼の作品の多くは誰にも真似できないような独特の技によって精緻に組み立てられている。
小説の世界は、普通の街並みや人々が出てきて、ミステリー独特のおどろおどろしい世界ではない。ただ、どこかねじれたような奇妙な事件が起きていく。
深刻な話は少ないが、どこか人の心理を虚をついたようなところがあって、ドキリとさせられることもある。
また、氏の作品に登場する人は、みなどこか飄々としている。そして、何よりも肩に力の入ったところがない。ミステリー作家の中には、構想が大きくなるほど、どこか大上段になる人もいるが、あくまでも粋だ。小説の構成を考えて、読者を騙すことをどこか楽しんでるようで、それが登場人物の飄々とした雰囲気とどこか重なる。
絵師、奇術師、そして作家を多面的な才能を持った方だが、まさにプロの職人だ。 >> ジンワリ楽しい、昭和推理の傑作「亜愛一郎」シリーズの続きを読む