深緑野分 『戦場のコックたち』 早川書房
最近、日本のミステリーの新作を読むと、なんかスッキリしないことが多かった。
先日書いた「王とサーカス」とか「64」とか、まあ世間の評判と自分の好みがズレているんだろうけど、この「戦場のコックたち」には結構引き込まれた。
ミステリーとしていろいろ突っ込むとキリがないかもしれないが、「次作も読んでみたい」と感じがする。デビューの短篇集に続いて、これは初の長篇となる。
ただし、いわゆる「連作」というスタイルだ。プロローグとエピローグを挟んで5つのエピソードが語られる。ただ、登場人物は同一という体裁だ。
というように書くと、北山薫のシリーズを思い起こすかもしれないが、タイトルとおり舞台は戦場だ。人は次々と天に召される。
この小説が意欲的だな、と思うのは、まず舞台の設定だ。第二次世界大戦の末期、あのノルマンディー上陸作戦に参加した米軍の群像を描いている。主人公はいわゆる「特技兵」で、タイトルの通りコックだ。
彼らは、戦場における主役ではない。だからこそ、戦場における人間を描くには巧みな設定だと思う。謎解きは小説の主役ではないが、謎が小説の駆動力になっていく。
謎自体は、結構他愛がない。「一晩で忽然と消えた600箱の粉末卵の謎」「不要となったパラシュートをかき集める兵士」などだ。
とはいえ、舞台は戦場だ。読むほうも覚悟と体力がいる。
戦争を描いた小説は、書き手にも読み手にも緊張を強いる。死は必然だし、精神状態は極限に追い込まれる。描き方を一歩間違えれば、読者は拒むかもしれない。とはいえ、逃げてしまえば、戦争を描く意味自体がなくなる。
著者は最新の注意をはらって、この難題に取り組んだと思う。
「戦争の悲惨さを告発する」という気負いは感じないが、謎解きの舞台として戦場を借りた、という軽さもない。
そして、個別のエピソードを解き明かしながら、小説の主題につながる大きな謎が終盤で明らかになる。
気になる点を挙げれば、登場人物が多い割に、描き分けがややぼやけるところだろうか。また、戦場のアクションにおける位置関係が分かりにくくなることもある。
このあたりは技巧的な問題だろうし、なによりも人物像が魅力的だ。
次はどんな世界観を見せてくれるのだろうか。