会社員を辞めて、1人で働くようになった十年以上が経つと、昔の感覚を忘れるようになる。
もっとも、企業と取引しているビジネスが殆どなので、ビジネスについては実に広い範囲の話をしていて、これは会社勤務の時よりも幅が広いと思う。ただし「ビジネス感覚」は共有できても、「会社員感覚」というのは忘れてきていて、ことに異動や評価などをめぐる心情みたいなものは、懐かしい感じになっている。
もちろん人事システムや育成施策、採用方針などの相談は、仕事としてはおこなっている。
ただ、一番うっすらとしているのは「ほめてもらう」という感覚だろう。
フリーランスのプロを名乗っている以上、依頼されたら期待値以上の結果を出し続けなくてはいけない。などと、書いてしまうと恥ずかしいような文章になるが、それを続けられなければ、「はい、どうも」で終わってしまう。
ただし、評価と言うのは「次の依頼」があるかないかで決まる。それだけだ。誰もほめてくれない。
会社員時代だと、成果を出せばほめてもらえる。「頑張ったね」と口で言われなくても、査定と言うデジタルな結果により、ほめられていることになる。時には、まわりから「すごいですねぇ」とか言われたりもする。
まあ、この辺りをカン違いして会社辞めちゃったりもするんだけど、辞めてしまうと「すごいですね」とかは言われない。「ありがとうございます」と言われて、「またよろしくお願いします」というサイクルが基本だ。
最近「すごいですね」と言われたのはいつだったか。有馬記念当てたとか、糠漬けを自宅で作っているとか、そのくらいじゃないだろうか。
「すごいですね」と言われたい欲求は「賞賛欲」と呼ばれ、「ありがとう」と言われたい欲求は「感謝欲」だ。人によって、強弱に違いがあり、それがまた適性につながる。僕は、検査などでは賞賛欲が強かったけれど、誰もほめてくれないので、どうでもよくなった気がする。
一方で、感謝される仕事をしなくては、という意識は強くなった。
あの手の検査で出てくるパーソナリティについて、一定の信頼性はおけると思うが環境によって変化するものだと思ってる。
ちなみに、「すごい」とか「ありがとう」とか言われなくても、十分に構ってもらえる方法もあって、それは猫を見ていて気づいた。そう、「かわいい!」だ。猫は賞賛や感謝とは遥かに遠いところにいるが、それでいいのだ。
つまり、人においてもその手があるにはあるのだが、ビジネスの世界ではもちろんおすすめしない。
なお、日経ビジネスオンライン「ミドル世代のキャリアのY字路」の第三回は賞賛欲と感謝欲をめぐるお話。『最後に「すごい」って言われたのはいつですか?』です。ぜひ、どうぞ。