妻が恩田陸の小説を読んでいたのだが、惹句を読むと「超巨大台風のため封鎖された空港。別室に集められた11人の中に、テロ首謀者がいるというらしい」あ、これはどこか既視感があって、まさに「11人いる!」ではないか。
恩田陸は、萩尾望都からの影響を受けていると言っているが、萩尾望都の作品が他の作家に与えた影響は相当広範にわたっていると思う。
文庫版『ポーの一族』には、宝塚歌劇の小池修一郎や作家の宮部みゆきがエッセイを寄せているが、宮部は萩尾を「多くの後続の作家のエネルギー源」と書いている。コミックはもちろん、小説や映画や舞台、あるいはゲームまでその影響は広い。直接彼女の作品を知らなくても、さまざまなクリエイターを通して知らぬ間にその世界を感じていることも多いだろう。そういえば「11人いる!」というドラマもあった。宮藤官九郎の作品である。
というわけで休み中に『11人いる!』を読み、と初期の傑作群を読み返して、やはり嘆息してしまう。『ポーの一族』を連載している間に、『11人いる!』『トーマの心臓』と送り出すわけで、「才能が迸る」とはまさにこういうことだったのか。どれも20代の仕事だ。
ストーリー、人物設定、そして作画の独創性など、おもしろいコミックの要素はいろいろあるけれど、萩尾望都で群を抜いているのはその「世界観」が独創的で、かつコミックならではのダイナミックスが感じられることだと思う。
時を超えて生きるバンパイア、宇宙飛行士の最終試験、ギムナジウムの少年たち。世界観がしっかりしているから、人物たちはとても自然に活き活きと動き出していく。
読み直して感じだのだが、ページをめくって行くとあっという間に「向こう側の世界」に連れて行かれる。そして、もうそのまま出て来られないような気分になってしまう。連載中に読んでいたファンはきっとどれだけ熱中したのだろう。
初夏の休みの晴れた日の午後、のんびりと読むには最高の作品群だと思う。
ちなみに、この作品群は電子書籍で買う気にならない。大概の小説やコミックは電子書籍にしているのだけれど、どうしても「紙の塊」を手元に置いておきたくなる作品はあるんだよなぁ。ちなみに5月10日には復刻版も発売されるが、限定BOXはもう入手困難のようだ。