府中市美術館の「ファンタスティック~江戸絵画の夢と空想」という展覧会は、最近の日本画展の中でも企画力において素晴らしかったと思う。まさに「ファンタスティック」だ。
展覧会と言えば、有名な作者や作品を目玉にすることが人気に直結する。一方で、テーマを適切に選んで、その世界観を組み立てていくのは難しい。
山種美術館で2年ほど前におこなった「Kawaii(かわいい)日本美術」などは印象的だったが、若冲の「樹花鳥獣図屏風」など大物もやってきた。
今回の展覧会は、そうした大物がいるわけでなはいが、中身は濃いし、発見がある。いい意味で、「勉強する」にも適しているし、楽しみもある。
前後期で全点入れ替えで、前期のチケット半券を持参すると半額になるというので、とっておいて再訪した。図録も買ったが、それも含めて自分にとっては珍しい。
日本絵画の様相をつかむのに重宝すると思ったし、読み物としての水準が高いと感じたのだ。それは館内の解説で感じた。作品の説明だけではなく、見るものに静かな「問い」を発しているのである。
図録の内容に沿って、展覧会を振り返ってみよう。
テーマ設定は、まず自然に目を向ける。「身のまわりにある別世界」では、月、太陽、気象などが題目となる。もちろん、日本画の得意分野だ。
次は「見ることができないもの」つまり、想像の世界だ。外国から伝説、あるいは地獄、妖怪まで、ちょっと畏怖もあれば、可愛らしさもある。
そして、この企画がユニークなのは「ファンタスティックな造形」という切り口があることだろう。金、霞、しなやかな形といった形状的なものだけではなく、「見上げる視線」というユニークなテーマもある。
江戸絵画を「ファンタスティック」という言葉で切りとった時に、江戸時代が想像以上にクッキリと浮かびあがてくるのだ。
豊かで楽しく、奥行きがあり、日常の喜怒哀楽が滲んでくるのだ。
業界内部のことは詳しくないのだが、学芸員の金子信久氏の力によるところが大きいのだろう。何冊かの著作もある方のようだが、府中の企画展はまた行ってみようかと思う。秋の藤田嗣治も気になるし。
ちょっと気になるのが駐車場の狭さだ。日曜日の12時前に出ようとしたら、もう満車だった。あとは、カフェも少々手狭な感じだ。周囲に飲食店などが少ないし、何かプラスの楽しみがあればもっと来館者も増えるだろう。それにしてもこれが700円である。
とにかく「ファンタスティック」という言葉を、ここまで突き詰めて、かつ広げていった企画力は相当だと思う。5/8までなので、連休中に足を運ぶのもいいかもしれない