「科学する」というのは、結構昔からある言い回しだが、いったいどんな本が他にあるのかと思ってamazonで検索してみた。一番最初に出てくるのは本書だが、次にあったのが『科学する麻雀』だった。
他にも、いろいろ出ているが共通点がある。それは「勘や経験あるいは言い伝え」に頼っている分野ということだ。
CMについては、科学的分析もおこなわれている。ただし、いま敢えてこのようなタイトルの本が出ることには大切な意味がある。なぜならCMを取り巻く科学は相当に進歩している一方で、多くの人はその最先端を知らないままにビジネスが進んでいるからだ。
この本に書かれている科学の対象は大きく2つある。
1つは「どのような人に到達しているか」という、メディアプランニングに結びつけるための数量的分析だ。
そして、もう1つは「どのように心を動かしたか」という、クリエイティブの課題、つまりメッセージ開発につなげるための合理的アプローチとなる。
メディアとメッセージ。広告の効果は、その相乗効果にある。多量に出稿しても、クリエイティブによって「残り方」が異なることは以前からわかっている。
一方で、どんな印象的なクリエイティブでも出稿量が少なければ、効果は限定的だ。
メディアとメッセージ。これは広告の両輪であり、広告代理店がビジネスとして成立する理由は、この2つの分野の専門的スキルを持つ人材を擁して、かつ組織としてデータを保有分析してきたことにある。
ただし、この2つの分野の距離はそれなりに遠い。コピーライターがメディアプランナーと相談しながらプレゼンテーションの準備をすることはあまりない。ところが、これからは違ってくるだろう。「情報の到達」と「態度の変容」はセットで考えるようになる。
なぜなら、デジタル技術によって知見が統合されるからだ。
本書ではCMに関する最先端の技術が紹介されているが、まずは視聴データの多様化と進化が改めてよくわかる。一読すれば「視聴率**%!」というような記事の見出しには関心がなくなるだろう。
それは、これだけおいしいコーヒーが選べる世の中で、「インスタントコーヒー売上1位」に関心を持たなくなるようなものだと思う。少なくても、広告主や代理店のプロにとってはそれが新しい常識だろう。
さらにクリエイティブ効果についても、想像以上に分析が精緻化されていることがわかる。この辺りの現状を知ってしまえば、毎年フランス南東のリゾート地まで業界関係者が大挙して押しかけている場合ではないことに気づくはずだ。
事件は表彰台の上では起こっていない。消費者のスクリーンの前で起こっている。
いずれにせよ、この本はCM界にとっての「新約聖書」のような役割になって行くだろう。紀元前の広告関係者にとっては、あまり読みたくない現実も書かれている可能性はあるが、時代は着実に変化していく。そして、真っ当に仕事をしたい人にとってはまさに「福音」だ。よく読むと、「黙示録」も書かれているのだが。
こうした科学的アプローチがもたらすインパクトは、広告主、メディア、そして広告代理店にも波及していくと思うが、そのことについては明日続きを書こうと思う。