マーケターと、「差別化」の自縛。
(2016年4月7日)

カテゴリ:マーケティング

高広伯彦氏が、自身のブログでこんなことを書いていた。

「違う」とばかり言ってると得をしないと思うんだ。B2BマーケティングとB2Cマーケティングの確執。

B2BとB2Cの問題に限らず「違う」を強調することの落とし穴を見事に指摘しているように思う。これは「何か新しいこと」に対して、どのような態度をとるべきか?という大切なテーマについての話だと思う。

B2Bのビジネスは、もちろんB2Cと異なる点も多い。それ自体は多くの人がわかるだろう。しかし、それ以上に共通点もあるはずだ。先のブログでも指摘しているように、「相違点だけ見てると、損をする」というのは、どんなビジネスでもあると思う。

たとえば、エリアの問題。国内で転勤すると、やたらと「違い」ばかりを強調する人がいる。ただ、聞いてみるとそういう人の多くは「言いわけ」になってることが多い。「ケンミンSHOW」のネタならともかく、できる人はエリアを超えた共通点に着目する。

これが海外になると、もう言いわけの宝庫となる。「日本とは違う」のは当たり前だし、赴任当初は戸惑うのもわかる。ただし、成果を挙げる人は必ず「人間同士の共通点」を探り当てている。

つまり、ことさらに「違い」が強調される時は、一瞬立ち止まるべきだと思うのだ。

B2BとB2Cは、「青」と「赤」のように違って見えるかもしれない。しかし、その間には紫があって、さらに青紫とか赤紫とかグラデーションのように存在している。プロフェッショナルは、そのあたりの見極め方が優れているが、メディア上には「青か赤か」というような話の方が、まあ受けるのだろう。

しかし、それは差別化の錯覚だと思う。マーケティングでは、たしかに差別化は重要で、マーケター自身も自分を差別化することに忙しい。しかし、「今までとは違う」というお題目を妄信したために遠回りした事例も山ほどある。いわゆるプラスチック・ワードが、一番広まりやすいのはマーケティング業界だ。つまり差別化というキーワードが、自らを縛っているように感じる。

「私はあなたとは違うんです」と最後の記者会見で言った宰相がいて、その時に何とも言えずに妙な空気が漂っていたことを思い出す。違いをやたらと強調する時には、何かの焦りや苛立ちがあるのかもしれない。

昔、コピーライターをしていた頃にワードプロセッサを使い始めて、すぐに指が覚えたのが「あたらしい」という字並びだった。それがマーケティングの宿命なのかもしれないが、ちょっと意地悪に疑ってみた方がいいんじゃないか?と思うのである。