自在で闊達、また聴きたくなるティベルギアンのピアノ。
(2016年3月29日)

カテゴリ:見聞きした

cedricセドリック・ティベルギアン ピアノリサイタル

2016年3月28日19:00 ヤマハホール

 

モーツアルト/ピアノソナタ 第14番 ハ短調 K.457

ベートーヴェン/ピアノソナタ 第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」Op.53

ショパン/24の前奏曲 Op.28

(以下アンコール)

ドビュッシー/前奏曲集 第1集 6番 雪の上の足跡 同/前奏曲集 第2集 12番 花火

同/前奏曲集 第1集 10番 沈める寺

 

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日曜の夜に、「なんか明日にもで軽く室内楽系のコンサート行きたいな~」と思っていろいろ調べてたら、ヤマハホールでいい感じの企画があったので行くことにした。予約画面から座席選択画面を見たら2階最前列が空いている。

ティベルギアンは何度も来日しているようだが、聴くのは初めてだ。ちなみに新装したヤマハホールに行くのも初めてである。舞台上にはヤマハのコンサートグランドだ。

長身で黒いシャツに、軽い色のジャケットとパンツでスッとあらわれて、まずモーツアルト。柔らかい音楽づくりだが、長い休符の後に、独特の間があって次の音へとつながる。どこかで聞いた感じだな、と思ったけれど、シューベルトのソナタのようなのだ。自在で闊達で、歌が溢れている。

フィナーレは、よりカチッとまとめている印象だった。

ベートーヴェンになると、明らかに神経質になっている。モーツアルトの時よりも背をかがめて鍵盤を凝視するようにして、ワルトシュタインの和音が鳴り始める。

提示部の最後の方では、リラックスした思い切り鳴らすようになり、想像以上に剛性の高い響きだ。

作曲家の名前にとらわれずに、たくさん弾きこんで、その上で自分の音楽を聴かせていくタイプだと感じる。ただ、思いつきではなく、十分な説得力がある。

前半で気になったのは、ベートーヴェンのフィナーレの強奏で、心持ち音が濁る感じがすることくらいだろうか。

休憩後の前奏曲は、最高の音の旅だった。長調/短調のいわば「表裏」を意識するのはもちろんのこと、全体構成がよく練られていたと思う。

前半12曲で思い切り遠くまで連れて行って、後半には段々と出発地点に戻ってくる。穏やかに始まった曲が、段々と複雑になり激しい感情の噴出があり、また調和の世界に帰ってくるような感覚だ。

アンコールは3曲ともドビュッシーの前奏曲から。硬質でクリアな響きで、引き締めてくれた。終わってみると、モーツアルトからドビュッシーまで、4人の作曲家を時代順に聴かせて、それぞれへの思いをキッチリと観客に伝えきっている。

また機会があれば聴きたいピアニストだ。

今回は前日にも関わらず、2階最前列でピアノの突上げ棒の正面くらいで、指も見えて表情もうかがえるいい席だった。音響は、ピアノとホールが一体となり豊かに響く。空気の密度が濃くなったような感覚で、妙な表現だがとても質の高いオーディオで聴いているような錯覚を起こす。

7階にエントランスがあるのだが、行き返りの案内などホスピテリティもとても優れていて、複合施設内のホールにありがちな導線のストレスがないのもいい。

ヤマハだけあって、ピアノを響きを最重要視したと思うが、このホールもまた再訪したい。