というわけで、「世界史の本」についての2日目だが、まずは『人類5万年 文明の興亡』(筑摩書房)から。イアン・モリスは英国生まれでスタンフォード大学の歴史学者。邦訳は2014年で、帯には、「銃・病原菌・鉄を超える」と謳われている。
で、帯裏にはその著者のダイヤモンドが推薦文を書いているのは「国家はなぜ衰退するのか」と同じだ。やはり、このカテゴリーは「銃・病原菌・鉄」のインパクトが強く、そうした読者をターゲットに芋づる式に狙っていこうという戦略なのだろう。
というか、僕は見事に引っかかっているんだけど。
これは「なぜ西洋が世界を支配しているのか」というサブタイトルがあるように、西洋と東洋の文明発展の比較に主眼がある。この本のユニークなところは「社会発展指数」という基準で評価をしていることだ。
それによると、古代から西洋がリードを広げるが7世紀には東洋が「逆転」し、大航海時代から産業革命を経て西洋が「逆転」して、未来に向かって東洋がさらに伸びていって…という見通しが語られる。
この指数は「エネルギー獲得量」「都市化」「情報技術」「戦争遂行力」の4つの特性から分析されるが、ここに異議を唱えるとすべての前提は変わってしまう。とはいえ、読者に代案が出せるわけでもなく、まずは読んでみれば早々の納得感はある。
分析フレームの勉強にはなるのだが、この本は上下で7000円を超える。この辺りが、いま一つ日本で話題にならなかった理由の1つかもしれない。
一方で、イノベーションと経済発展を追った『繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史』(早川書房)は、歴史における「交換」と「交易」に焦点を当てている。著者のリドレーは英国の研究者だが、重視しているのは人間同士が累積した知識を共有して発展してきたプロセスだ。
そして、この本の特徴は一貫した楽観性にある。たしかに、過去の悲観的な論説は必ずしも現実になっていない。原題は、”The Rational Optimist”、つまり「合理的楽観主義者」で、それがこの本を的確に表現している。
ただし、この本は2010年に出版しており、その後の福島原発事故やその後のEUの混乱、さらに米国大統領選の迷走などを見ると、またいろいろな疑問も浮かんでくる。とはいえ、文庫版やkindleなどで手ごろな価格になっていることはありがたい。
また『「豊かさ」の誕生 成長と発展の文明史』(日本経済新聞社)は、そのタイトル通りに近代経済成長のダイナミズムに焦点を当てている。本書の興味関心は1820年前後の技術革新にあり、そこからの「勝ち組」としてオランダと英国、さらにキャッチアップした国として日本への言及もある。
著者のバーンスタインは米国の投資家であり、論旨はシンプルでわかりやすい。経済発展だけではなく幸福感についても論じられている。
研究者が書いた本のような、ねちっこさから生まれる発見はやや希薄かもしれないが、文庫版も出ており、まず読むには結構いいかもしれない。ただし邦訳が2006年で原著はその2年前なので、そのことはアタマの隅に入れておいた方がいいだろう。
なお、この本でも「銃・病原菌・鉄」について言及されており、あの本が与えた刺激の強さがよくわかる。
というわけで、明日は昨年に翻訳の出た本を紹介しようと思う。