今世紀に入った頃から、世界史の「仕組み」を俯瞰するような本がいろいろと出ているように思う。
その理由はいろいろと考えられるが、やはり冷戦の終結は大きいのではないだろうか。社会主義に一定以上の可能性を感じていた時代には、マルクス史観の影響力も大きかった。その呪縛が解けて、もう一度歴史のダイナミズムを研究して、かつ一般読者にもわかりやすく書いた本が、欧米発で生まれている。
一方で、そうした本の中身を若い人に紹介すると、結構興味を持つ人が多い。情報が溢れる中で、「そもそも」の話を知りたい欲求も強いのではないだろうか。
そうした仕組みの観点から、斬新な視点を提示したのはジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』(草思社)だろう。日本版は2000年の発刊だから、ある意味では、定番の本でもある。賛否を含めて、まず一読してみる価値はある。文庫になっていて、kindle版もあるので求めやすいのも魅力だ。
「16世紀にピサロ率いる168人のスペイン部隊が4万人に守られるインカ皇帝を戦闘の末に捕虜にできたのはなぜか?」
そのような、征服と被征服の原因は「銃と軍馬」にあるという。では、その差はどこから生まれてきたのか?
ここで、著者が最も重視するのは地形や生態などの「環境の差」だ。たとえば、食糧生産の伝播は東西には早く伝わるが、南北には遅い。このような差が、長期的には文明の差になっていく過程を解き明かす。
ただし、すべてを環境に帰していくような考え方には、当然異論もある。
産業革命以降の発展の差異に分析の主眼を置いた『国家はなぜ衰退するのか』(早川書房)は、そうしたダイヤモンドの見解とは一線を画す。
『銃・病原菌・鉄』の内容を引用しつつ、批判的に分析しているが、広告には「ジャレド・ダイヤモンド絶賛」とある。世界史の仕組みが複合的要因から成り立っていることがよくわかる。
欧州ではペスト流行後に人口が激減した。そして、英国では労働単価が上昇したが、等々では逆の動きになる。そうした動向が後の市民革命から、産業革命へと展開していく過程を分析しつつ、政治・経済上の制度の差異に「豊かさと貧困」の理由を求めていく。
少々冗長に感じるところが難点で、「銃・病原菌・鉄」に比べると、読み物としてのスリリングな感じではちょっと劣るかもしれない。
ただし、分析の厚みと説得力は大変に高い。
以前に書いた『帳簿の世界史』『水が世界を支配する』のように、一つのテーマに絞って歴史を読み解いた作品と併せて読むのも面白いと思う。