夢幻能《月に憑かれたピエロ》というタイトルを見て、「おお!」と思うか、「なんだそりゃ」と思うか。僕は前者だったからすぐにチケットをとって行ったんだけれど、似たような人は結構いるようで東京文化会館の小ホールは満員だった。3月24日19時の開演で、ソプラノは中島彰子。この企画自体は既に何度かおこなわれているようで、演出も彼女の手になるもののようだ。
能管から始まるが、その後いったん静寂の中からシェーンベルクとなる。笛の他も大鼓・小鼓に、地謡が加わるが、音楽的に両者は交わらない。ごく一部、シェーンベルクの演奏中に能管が重なるところがあったようだが、基本は、曲間に能が演じられて、奏されるつくりになっている。
段々と一体感が出てきて、二幕の最後などは夜叉の姿のシテとピエロが舞台上で交錯して、中島が「Kreuze!(十字架)」と叫びながらか客席に走り降りて、静寂から次につながるという構成だ。
想像以上に違和感のない構成で、音楽と舞は十分に楽しめた。アンサンブルの質も高く、チェロの柔らかさや、クラリネットの鋭さを包み込む小ホールは素晴らしい。
賛否が分かれると思われるのは、舞台スクリーンに映され続けられるムービーだろう。字幕が出るのだが、対訳ではないので中途半端な感じを受けるし、いきなり「月」そのものが映されるなど、少々「絵解き」の演出も多い。
アート畑のプロだったら、少々苛つきながら見るのではないかと思う。ただし、何もないというのも、抽象的に過ぎるのではないだろうか。 >> 夢幻能「月に憑かれたピエロ」から「名取ノ老女」へ~東京の舞台よりの続きを読む
日曜の夕方、家で食事する前に隣の駅まで1人で散歩して、ふらりと知らない店に入った。
カウンターでビールを飲みながら、新じゃがのポテトサラダをもらう。長ネギかと思ったら「高菜」だという。新玉ねぎと鶏胸肉のマリネで、山形の白ワインと続けて、そのまま居座りたいくらいだったのだが、食事の準備も進んでいるので帰宅することにした。
シェフの腕も並べているワインのセンスもいいなと思ったのだが、その店にあった本が、この「図解ワイン一年生」だった。
僕は、なぜか人からワイン通と思われることが多いのだが、あまりよくわかってない。理由はわからないが、よく行く店でも勝手にそう思われてるので、とにかく何を言われても頷くことにしているのだが。
というわけで、ワインの本は一冊も持ってないし、手にとってもやめてしまっていたのだけれど、この本はすぐに買ってしまった。なんか読み物として楽しいのである。
幾つか特徴があるけど、まずはブドウの品種をキャラクター化していること。まあ、「優等生」「やんちゃ」くらいの比喩はあるが、この本は徹底している。そして、ちゃんと絵になっているので、ところどころにコミックでショートストーリーが挟み込まれる。
カベルネ・ソーヴィニヨンが優等生の男子で、シャルドネが人懐こいみんなのアイドル、という辺りはまあありそうだが、ミュスカデが「いつも服が汚れているさわやかドジ男」だったり、ジンファンデルが「ダイナミックで気のいいアネゴ肌」というところまで徹底しているのがすごい。
というか、この手のキャラがダメだったら、もうこの本には馴染めないと思うが、僕はスッとわかった。優等生のカベルネが米国にわたって、マッチョになったりするのもおかしい。まあ、マイナーな品種になるとちょっと大変そうにも見えるけれど。 >> 想像以上の入門書「ワイン一年生」の続きを読む
民進党、って一発変換されるのか。で、政調会長に山尾志桜里が決まったらしい。こちらの名前も、ちゃんと辞書に入ってた。まあ、それはともかくちょっと気になることがある。
彼女は検事出身で、つまり法曹資格を持っている。で、最近の政治家には結構多い。現党首や経験者だと、谷垣禎一、福島瑞穂、山口那津男、それに橋下徹がそうだ。幹部クラスだと、枝野幸雄、高村正彦、稲田朋美など。ちなみに、この間お騒がせの丸山和也も弁護士だし、引退した元官房長官の仙谷由人もそうだった。
こうしてみると、党派については右から左までいろいろだけど、なんというか似たような共通点があるように感じる。
アタマのキレや理解力は優れているのかもしれないし、そう感じることもあるのだけれど、政治家として何かが足りない気がする。うまく表現できないのだが、あと一歩の説得力とか、ダメ押しのようなものがどこか淡泊だ。
谷垣氏は総裁経験者だが総理にはなれず、橋下氏は住民投票で惜敗して政治家を辞めた。福島氏も闘志のようでいながら、党の退潮を何が何でも食い止めるという泥臭さは感じられない。
法律家は出来上がった法の下で、それを正しく取り扱うことが仕事である。一方で、政治家は法そのものをつくる過程に携わる。つまり、ある意味では「なんでもあり」という一面がある。
とはいえ、なんでもありだと滅茶苦茶になるので憲法という枠組みがある。ただし、つくられる法律が違憲か合憲かという議論が定まらなくても、国会で採決されれば法となるわけであって、その辺りは昨夏の安全保障法案の経緯が語るところだ。 >> 山尾志桜里も法曹出身の政治家なのだが。の続きを読む
今年は、年明けから国内のスキャンダル報道が多い。というか、元を辿ると週刊文春が爆走しているということなのかもしれないが。
まあ、第一報のニュースが見るけれど、その先の報道、というか情報番組などは見ない。逮捕で騒ぐのはわかるが、保釈でヘリを飛ばしたり病院に張り付くのは何なんだ。あと、「謝罪」をわざわざ見たりするのも避けている。
なんか、ゴルゴダの丘の群衆に加わるような感覚になるのだ。処刑される人が誰であろうが、構造は似ている。そして、3日後とは言わないが復活する人もいるわけで。あ、そういえば次の日曜はイースターか。
それでも、メディアはしつこく追っていく。特にテレビはあちこちでやるので、それを避けると見る番組がなくなるような時間帯もあって、スイッチを切ることになる。
でも、それは需要があるからなのだろう。みんなが見なくなれば、テレビも変わるかもしれない。
で、その需要っていうのは「溜飲を下げたい」人が生み出していると思う。
「なんだよ、結局不倫じゃ、CMゼロでもしょうがねえだろ」
「事務所独立するって、難しいに決まってんだろ、何年芸能界いるんだよ」
「あんだけ詐称して、よく偉そうなこと言ってたよな」
ちなみに「溜飲」というのは、「不消化のため飲食物が胃にたまって出てくるすっぱい液」ということだ。それが下がるというわけなのだから、「なんかムカムカして不快な状況にある人」が、「溜飲を下げる」番組のターゲットということになる。 >> 「溜飲を下げたい人」とメディアのダメな関係。の続きを読む
3日にわたる世界史本あれこれだが、まとめの話と、少し昔の本について。
いろいろとあげてきたが、この15年ほどの「世界史本」は、ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』のインパクトが起点になっていると思う。
そして、いろいろあげた中で「どれから読むか?」という話になる。これだけの量のモノを片っ端から読むくらいなら、もう少しバランスよく、いろんな本を読んだ方がいいだろうし、ハードカーバーで高価な本も多い。
そうなると、既に文庫本になっていて、ある程度とっつきやすいモノから行くというのもありだろう。
つまり『銃・病原菌・鉄』『繁栄』『「豊かさ」の誕生』あたりだろうか。『国家はなぜ衰退するのか』もいいのだが、訳がこなれていないこともあって、いきなりはきついかもしれない。
また、図書館で借りてようすを伺ってから、順に取り組むのもありだろう。ただし、忙しい人にとって、借り出し期間中の読了は難しいだろうし、読むなら購入して鉛筆なりポストイットなり、自分のやり方で読み込むことをすすめたい。
また、歴史の本はすべての事象を網羅的に扱えるわけではないし、それぞれの著者の知識にも限界がある。したがって、どんな大作にもケチをつけるのは簡単だ。
「○○についての記述が足りない」「××についての考察が浅い」などというレビューを書くことは、実は誰にもできるのだ。今回は一冊ごとに詳細な紹介をしてないので、ネットのレビューなどを見ることもあるだろうが、その辺りを踏まえた上で取り組むといいと思う。
また、今回紹介した本は、すべて英米系の研究者によるものだ。ここまでガッチリと腰の据えた研究は日本では難しいのかもしれない。
ただし、日本人が「歴史の仕組み」に取り組んだユニークな本も当然ある。まずは、この辺りを読んでから、いろいろと広げていくのもいいだろう。 >> もうちょっと、世界史の本について。の続きを読む