学生も大人も感染する「真実もどき」
(2016年2月23日)

カテゴリ:メディアとか
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先日学生たちと就活のことで話す機会があって、いろいろと質問を受けた。ところが、妙な都市伝説のようなものが結構多い。

「メーカーではスーツの色は黒がいいと聞いてますが」

「銀行員の前で、“公務員受験を考えていた”と言ってはいけないんですよね」

みたいな話だ。銀行員は公務員を嫌っている、という話だが、出所はよくわからない。この手の噂は年々増えている。スーツの色についても不明。

この手の「真実の話」ほど、真実から遠かったりする。大学生が世間を知らないから、というのではない。齢をとっても、妙なものに嵌る人はたくさんいる。

スーツの色で思い出したけれど、新入社員へのアドバイスの記事で「米国大統領」を持ち出していたものがあった。結論として紺かグレーを選ぶべき!という一般的な話なんだけど、そもそも新入社員が大統領の服をまねる必要性がどこにあるのかいな。

それより自分の似合うものを選べばいいと思うんだけど、それじゃ記事にならない。つまり、フツーのことをフツーに伝えても目立たないのでそういう話になるんだろう。

その手の記事づくりが増えるから、ネット上には「○○すべき」話が溢れて、一定の人がそれに煽られるから、真実もどきが増殖する。

そういうわけで、学生や若い人へのアドバイスは単純になる。「真実は」と謳っているものは、とりあえず疑っておけということだ。「真実を探す」とか言う記事を読むと、そもそもの事実誤認だったり曲解だったりする。

「メディアは真実を伝えない」というのは、たしかにそうかもしれない。ただし、その思い込みが強い人は一定数いる。池の魚に餌を撒けばワラワラと寄ってくるように、「マスコミが伝えない」というだけで、寄ってくる人がいるのだから、彼らが満足する情報を書けばそれで成り立つのだ。

しかも、今年は「肝心のことがよくわからない」スキャンダルが多い。そもそもLINEのやり取りがなぜ流出したのか。政治家秘書に会う時に、逐一録音していた理由は何なのか。あの男性アイドルグループの人間関係はどうなのか。

かくして、「真実もどき」の情報が増殖してソーシャルメディアで飛び交う。1月頃に「この芸能ネタの連発は、実は大地震が起きるのを誤魔化すための政府の陰謀だろ」とか言って仲間内で笑っていたら、本当に信じている人がでてきて困ってしまった。

一昨年から大学の講義では「鼻行類」の話をしている。この本は、鼻行類という謎の生物について書かれた「学術書」だ。いかにして人は「真実」を見極めるか。もっともらしさというのは、どうして成立するのか。あと、「アポロは本当に月に着陸したのか」という話も、敢えてしている。

人は、「情報のフレーム」によって世の中を見る。そして、人によって信じているものは異なる。学生の頃に、そうした相対化をして「リアリティ」を形成して、自分なりの世界観をつくっていく。つまり「社会的現実」とは何か?を考える機会が必要だ。そのプロセスを手伝って、「真実もどき」に感染するのを防ぐのが大人の仕事だろう。もっとも感染している大人が結構多いのも事実なのだが。

※鼻行類という生物については出版物もあるが、いろいろと調べてみることを薦めたい。この辺りの「社会的現実」のことについては池田謙一氏の著作がわかりやすいと思う。