指揮:ダニエル・バレンボイム
2016年2月14日(日)サントリーホール 大ホール
ブルックナー/交響曲第5番 変ロ短調
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「感動をありがとう」という言葉がどうしても馴染めず、オリンピックやワールドカップの時にその言い回しが飛び交うとどこか居心地が悪くなるんだけど、今日はその気持ちが少しわかった気がした。
ブルックナーのフィナーレでジワジワと涙が出てしまったのだが、オーケストラでは相当久し振りの体験だったけれど、自分でも驚いた。
溜池山王の駅には「あなたは歴史の目撃者となる」というちょっと大げさなコピーのポスター。そして、ホールまでの地下道を黙々と、巡礼の列が連なる。殆どが男性1人だ。バレンタインデーとか、全く関係ない。ホワイエには、たまに若い女性もいるが、なぜか心配になる。ここはバレンボイムを聴く所で、バレンタインとは関係ないんですよと教えた方がいいのか。今日に限らないが、ブルックナーのコンサートはいつもこんな感じだ。
第5番は静かなピッツカートで始まるが、バレンボイムは殆どタクトを動かさない。それでもオケはキッチリとテンポを刻む。この時、今日はいい演奏にはなると思った。
指揮者が何を求めてどこに進みたいかが、十二分に共有してるように感じたのだ。
全奏になると、管楽器が心持ち後から出る。ずれているのではない。こういう曲の場合、スパッと出るよりも音が豊かに響く。
ベルリン国立歌劇場は、バレンボイムとの来日公演でワーグナーを何度も聴いていていたが、改めて相当達者なオケだと感じだ。ホルンを初めとする金管楽器は、アタックを決める時は決めるし、コラールで神々しい音を聴かせてくれる。
弦楽器も強くて、かつ豊穣に鳴る。アダージョの第2主題の決然とした響きや、フィナーレのフーガなどがグッと迫ってくる。
バレンボイムの棒は自在で、アダージョのオーボエソロの時など全く振らない。その一方で、ここぞという時は管に対して「ドリャ~」と唐突なアクションを見せるのだが、これがまたピッタリ決まる。オペラであれだけの実績があるのだから、コミュニケーションが相当こなれているのだろう。
それにしても、どうしてフィナーレであんなに感動したのか。金管を補強してはいたが、音量自体は高揚の本質ではない。曲に対する奏者と指揮者の深い共感があって、それを「客に伝えたい」という熱い思いがあって、それを支える高度な技術が揃った時にしか、こういう演奏はできない。
想いが先走っても技術が足りなければ伝わらないし、共感が浅ければ心を動かせない。そして、今日の観客は圧倒的な演奏の後に、しばしの静寂で最大の敬意を表した。余計なアナウンスなどなくても、最高の演奏は沈黙を呼ぶ。
このコンビのチクルスは、まだチケットが残っているようだ。可能であれば、ぜひ聴いてみることを薦めたい。
あのポスターのコピーは全然はったりではないのだから。