ライフネット生命はアタマが良すぎたのか?
(2016年2月8日)

カテゴリ:マーケティング
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ライフネット生命のCMが流れていて、アレ?と思った。「ネット保険なのに、電話で相談!?」というというタイトルで、契約者が登場している。調べてみると、他にもあって「ネットだから、いろいろ不安?」というようなCMもある。すべて、契約者が話すという設定で、グループインタビューを映しているような感じだ。

ライフネットと言えば、社名の通りネットに特化して、その強みを最大に活かしてきた。一方で、いまのキャンペーンはある意味で「ネットの否定」である。電話で相談できたり、「あたたかい」という価値訴求は、むしろ国内の大手生保に近い。

このCMは既に昨秋からオンエアしていたようなので、路線変更をしたのだろう。

ライフネットの戦略的はとても明快だった。3Cのお手本みたいなもので、ネットに特化して、競合とは価格面で差別化を図り、顧客は20から30代の都市在住者。かつてのCMなどは、その辺りがわかりやすかったので大学の講義などでも題材にしていた。

ペルソナの設定を丁寧におこなった上でのマーケティングだったと推測する。

その後、競争の激化で新規契約が伸び悩み、KDDIと資本提携をおこなった。この辺りの経緯は、この記事(東洋経済オンライン)などに詳しい。

いろいろと分析記事を見ると、価格優位性が薄れたり、対面型販売への根強い人気など、おもに競合との関係で優位が保てなかったという。その通りだとは思うのだけど、僕が気になるのはライフネットは「顧客からの共感」を高めに見積もり過ぎたのではないか?ということだ。

より合理的な選択を志向する企業姿勢へ共感してくれる人々。それがライフネットの描いた顧客像だったと思う。以前は、価格訴求をする際に「余計な営業コストがかかっていない」ことを訴求して、保険料の内訳を公表した。

もちろん、その姿勢に共感した人も多かったと思うけれども、さて、それは生保の会社選びで強い動機になるんだろうか。

この辺りの消費者インサイトは、経営戦略では読み切れない部分がある。生命保険は「いくら払って、いくらもらえるか」が加入者の関心事だけれど、もらえるおカネはどこからもらっても同じだ。シビアな合理性が求められるマーケティングの世界で、「共感性」はどれだけ重要だったのか。

それに気づいたからこそ、いまのようなキャンペーンになったのだろう。IRを見ると昨年10月以降は申込み件数も増加しているようだ。間もなく第三四半期決算も出るだろうから、提携の成果も含めて全体としては前向きの内容になりそうではある。

改めて思うのは、ライフネット生命はちょっと「アタマが良すぎた」のではないかな。志は高く経営コンセプトは明確だが、それを理解して共感するほど「アタマの良い消費者」を多めに見積もり過ぎた気がするのだ。現在のCMなどは、むしろ「誤解を解く」ことに相当注力している。

”Join the Group”、つまり「この指とまれ」という活動が、共感されるブランドづくりである。というのは、よくテキストなどには書いてある。

そこには、アップルやハーレーダビッドソンのケースなどが例示されているけれど、そういうプレゼンテーションを受けて「ああ、なるほど」と進めていったブランディングがうまくいくとは限らない。

ライフネット生命が生命保険のビジネスに投げかけたは波紋は大きかったのだから、今後どのようなマーケティングやブランドづくりをしていくのかが気になっている。
(TVCMはこちらのサイトを参照にした)