「牛丼、3カ月食べ続けたら… 吉野家が研究結果を公表」という見出しが朝日新聞DIGITALに載っていた。吉野家HDがおこなった実験なんだけど、結果としては「健康リスク」は増えないということらしい。
気になったので同社のウェブサイトにあるプレスリリースを見てみたんだけど、これ、実に興味深くて、少なくても朝日の記事だと見出しは正確とは言えない。
実際に食べたのは「牛丼の具」なのだ。
リリースのタイトルも『吉野家「牛丼の具」の長期連続摂取に関する研究』とある。
つまり、この「具」を一日一食、12週間続けて食べてもらったというわけだ。
でも、これって、実験と結果のロジックを考えてもらうのにいい素材だと思う。高校生あたりに問題を出して考えてもらうと、ちょうどいいんじゃないだろうか。
「この実験から、『日常的に、牛丼を一日一食3か月食べても健康リスクは増加しない』と言えると思うか。理由とともに述べよ」
まず、「ご飯を食べているとは限らない」だろ、という指摘は誰でも思いつくだろう。プレスリリースの最後に以下のように書いてある。
『「冷凍牛丼の具」は牛丼としてだけでなく他の食材と組み合わせて肉じゃがなどのメニュ
ーに活用するのも便利です。』
今回の実験でも、毎日「牛丼」を食べたわけではない。
次に明記されていない疑問なんだけれど、「牛丼の具」のツユを全部食べたのか?ということが引っかかる。実験にあたって「ツユまで食べる」ことが条件かどうかで、摂取する内容は異なるだろう。
ラーメンなどでもスープをどこまで飲むかによって、摂取カロリーや栄養素は相当変わる。また「牛丼」として食べた時は、このツユは相当一緒に食べる。でも、この条件だとその辺りは曖昧だ。
そして、3つ目。この実験に参加した人の食生活全般に変化はなかったのだろうか?実験にあたっては「普段通りの食事をしてください」と言われるはずだが、意識の変化は強いだろう。「野菜を多めに取らなきゃ」とか「塩分を控える」などの調整がはたらいた可能性もある。これ、健康関連の経験談でも同じだ。「毎日**を食べるようにした」というだけで、すごくいろんな効果があるように喧伝されることがあるけど、そもそもその時点で健康意識が高まっているんだから、食生活全般を気にしているはず。特定食品の効果以外の要素がはたらいている可能性もあるのだ。
この牛丼の具は249kcal。リリースには「通常の食事にプラスして」とあるが、3食の中で、本人が食べられる量の範囲に含まれるだろう。つまり「毎日、牛肉と玉ねぎを醤油や砂糖で煮たものを食べ続けていても健康状態にリスクはない」という、素人が考えても普通の結果が出たわけで「牛丼を3か月毎日食べたらどうなるか」ということとは、まったく別の話だと思う。ちなみに日経の見出しは「牛丼の具」だったけど。
とはいえ、先のような見出しがついて、他のネットニュースも同様だから、まあPR効果はそれなりにあるだろうし、久しぶりに「牛丼食べるか」と思った人も多いだろう。
そして「牛丼一日一食OKに、驚きと疑問の声」とかいうトピックがJ-CASTニュース辺りで取り上げられて忘年会のネタになるんだろうなあ。