政治に関する話題、ことに海外に関することは門外漢なので書かないことが多いのだけれど、毎朝NHK-BS1のワールドニュースを見ているので、欧州難民の話は相当気になっていた。
日本では、マーケットの激震と五輪に関するゴシップばかりが目立った8月後半から欧州ではドイツのZDFや英国BBCなどで、中東からの難民問題がトップニュースになってきた。各国の世論が「受け入れるべき」に変わったのは、9月2日に報じられた一枚の写真だ。トルコに漂着した3歳の遺体の姿はたしかに強い力を持っている。日本の報道では、兵士が遺体を抱き上げている姿で、一部がモザイクになっていたが元の写真には、さらに強烈なものがある。(こちらがロイターのリンク先だが、衝撃度が強いので閲覧は各自でご注意ください)
ただ、8月28日はオーストリア内で高速道路のわきに停車されたままの冷凍車から71人の遺体が発見されるという衝撃的な事件があった。これにも相当驚いたが、幼児を写した1枚の写真の方が世論を動かした。ということは現在の世論にも相当に情緒的な面があるということだろう。
いまでは「難民歓迎」をキーワードにするような記事もあるが、それは一面を映したものだと思う。既に英国の世論調査ではEU離脱賛成が5割を超えたが、これは難民問題の影響と見らている。また、デンマークでは難民への規制を強化する動きがある。
一方で、難民を受け入れることに積極的なのは、ドイツだ。その目標は80万人というから、それは人口の1%だ。一方で、ドイツの出生率は低く、昨年は回復傾向にあるが出生数は71万人。
つまり、1年分の出生数以上の人口増加を想定していることになる。日本だと「120万人受け入れ」というイメージだ。
ドイツが第二次大戦の行為を鑑みて難民受け入れに寛容な政策をとっていることは事実だろうが、これはある意味で国を挙げての労働力確保、つまり「採用戦略」のようなものだと思う。経済は好調で、労働力不足をどうするか、が課題なのだ。
ところが、各国に対して割り当てとなれば異論も出るだろう。
経営好調なトップ企業が、「就職難だから皆で採用枠を決めましょう」と言ったら、「それどころじゃない」という企業だって多いはずだ。
難民問題を、単に労働力の需給だけで捉えるのは一面的であることは承知だが、僕はドイツの動きが少々気になる。
というのも、一方でハンガリーの立場にも深く同情してしまうからだ。多くの難民はハンガリーからEU内に入ろうとする。そして、オーストリアを通じてドイツを目指すのだから、当然大混乱が続いている。オルバン首相は国境管理を強化する一方で、難民受け入れの分担には「幻想」と反対するが、当然のようにメルケル首相は「EUの義務」と対立するわけだ。
ハンガリーで難民を制止する警察の映像などもニュースで流されて、対応は冷たいように見えるかもしれないが、そうではないと思う。それはハンガリーの歴史を知ればよくわかる。
ハンガリーは、15世紀以降オスマン帝国の侵攻の矢面に立ってきた。16世紀にはオスマントルコとハプスブルクの統治下になり、ウィーン包囲敗北でオスマンが撤退した後もハプスブルクの支配を受ける。
その後は、ミュージカル「エリザベート」にもエピソードがあるが、いわゆる二重帝国となる。ドイツと組んで敗北した第二次大戦後は共産圏に組み込まれるが、その後の動乱はソ連軍に鎮圧される。
冷戦崩壊後は現在のようにEUに加盟したが、このように見ていくと、ハンガリーというのは何百年にもわたって常に「東からの脅威」にさらされて来た。今の危機感も、当然なのではないだろうか。
一方でオーストリアはドイツ語では「Österreich=東の帝国」だ。ウィーンはオスマン侵攻に対して、欧州から見れば「最後の砦」であり、一方でハンガリーは被支配地域となってきた。
そう思うと、僕はドイツのリーダーシップがどうしても強引に見える。もし経済が変調をきたした時に、いまの「採用拡大」が裏目に出る可能性もある。
難民問題については、感情に流されずにハンガリーを含めた欧州内の弱者の声にも、もっと耳を傾ける必要があると思うのだ。
[9月10日追記]などと書いていたら、ハンガリーの放送局のカメラマンが難民の子どもを蹴るというニュースが流れてきた。右派の放送局のようだが、これではハンガリーのイメージがさらに悪化することになるだけだろう。感情的な議論を抑えるべき時に、相当残念な話である。