【夏の本祭り】戦争の多面性を知るために、終戦の日に『同日同刻』。
(2015年8月15日)

カテゴリ:読んでみた

515MGFDBGCL._SX349_BO1,204,203,200_[読んだ本]山田風太郎著 『同日同刻』 ちくま文庫

8月の終戦の日が近づくと、テレビがやたらと戦争関連番組を流す。NHKのように、時間をかけて追い続けているような局はともかく、ついさっきまでから騒ぎをしていた民放の番組予告とか見ると、妙な押しつけがましさが先に立つ。慣れないスーツを慌てて着たら、ネクタイが曲がって滑稽になったような感じにしか見えない。

今年は戦後70年ということもあって、出版関係も早々と祭り状態だ。戦争という悲惨な歴史を販促にすることに、ためらうようなゆとりなどないんだろう。

何かのきっかけで、いろいろと本を読むことはいいと思うんだけど、ずっと問題意識を持ち続けられるか、という人は少ない。いまの安全保障の議論を見ていても、「にわか平和主義者」や、「即席愛国者」の言ってることは、相当に浅い。

いっぽうで、たとえば今の中学生に「戦争についての本」を選んで薦めるとなると、相当難しい。戦争は多面的だ。勝者がいて、敗者がいる。何年経っても、それぞれの思いがあって、論理がある。

だとすれば、その多面性をそのまま本にしたらどうなるか?というのがこの山田風太郎の著書だ。

開戦の昭和16年12月8日、終戦の年の8月1日から15日までの、さまざまな記録を編纂した本である。国内の記録もあれば、英米の回顧録もある。真珠湾攻撃の際の高揚が、高村光太郎、獅子文六、そして太宰治の言葉でつづられる。

そして、最後の15日は禍根の15日でもある。外交交渉と、組織内の意思決定が複雑に絡み合うが、二つの原子爆弾投下は防げなかったか?と改めて感じるし、一歩間違えば、「終戦」すらなかったのかもしれないと思う。

開戦の日の記録で、旧制広島高校の記録がある。「廊下のマイクが臨時ニュースを伝えると、教授は廊下に飛び出して、頓狂な声で“万歳”を叫んだ」という。

そして、この教授が「戦後広島の原爆慰霊碑の『安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから』を書いた人であった。」と“事実”が記される。そして、その時の学生の中には4年後に学徒兵として原爆で死んだ学生たちもいた。

ここだけでも、4年間の点と線をつなぐ糸が浮かび上がる。全編このように、記録が淡々と伝えられるが、それだけに問いかけは重い。

そして、記録だからこそ、この本を読めばいやでも「自分で考える」ことになる。

極端な意見は、刺激の強い食べ物と同じで、癖になる一方で感覚を麻痺させる。

いろいろな史観の人がいて、癖がある意見ほど話題になるようなメディアの状況の中で、まず一冊読むなら、この本がいいと思う。