【夏の本祭り】ちょっといい香りのビジネス書『帳簿の世界史』
(2015年8月9日)

カテゴリ:読んでみた

51W50MtEiqL._SX340_BO1,204,203,200_[読んだ本]ジェイコブ ソール著, 村井 章子 (訳) 『帳簿の世界史』(文藝春秋)

少々早めだが10日ほど夏の休みを過ごしてきた。ちょうど猛暑日とともに東京を離れて、戻ってきたらとりあえず普通の夏だった。まあ、一か所に滞在してヒマがあれば本を読むという休みだ。

で、世間はお盆などになろういうタイミングで、読んだ本の感想など。

まずは、今年の4月に出版された『帳簿の世界史』。一つのテーマから歴史を見ていくという試みの本はいろいろあるが、この本のテーマは「会計(アカウンティング)」だ。ちなみに著者は南カリフォルニア大学教授で、歴史学と会計学を専門としている。

冒頭、ルイ14世は毎年会計報告を受けていたが、やがてその習慣をやめてしまった、というエピソードが明かされる。どうやら、ジワジワと悪化していく財政の実態を見たくなかったようだ。そして、やがてフランスの財政は悪化の一途をたどり、課税の議論はフランス革命へとつながっていく。

ただし、この本の現代は「THE RECKONING」、まさに「帳簿」だ。決して、accountingの歴史ではない。複式簿記により、総体として自らの国や企業の財産をどう把握してきたか、という話だ。そして、この「帳簿」をどれだけ大切にしてきたかが、歴史の明暗を分けて来たことがよくわかる。

内容は、西洋史を追うように進む。となると、まずはギリシャなのだが、いきなりこんなことが書かれている。

「アテネ市民は会計責任という概念をよくわかっていなかったようである。(中略)不正はある程度までやむをないとして容認され、むしろ厳格な監査はいたずらに平穏を乱すと見なされた」(P.24)

いや、もう今のギリシャに手を焼くのもよくわかる。ていうか、何も変わってない。不正操作は時代を追っても何度もエピソードが出てきて、最後の方ではエンロンなどの話にも触れられる。いくら立派なシステムをつくっても、誤魔化すという意志があれば、この手の話はなくらない、という歴史の記録に東芝もまた名を記すことになったというわけだ。

そして、戦争は本当に金食い虫だ。メディチ家やルイ王朝でも、戦費のダメージがとどめとなる。これも現代にいたるまでの真実だろう。

残念なのは東洋史についての記述が少ないこと。巻末に編集部が「帳簿の日本史」という附録をつけているが、中国などがどうだったかくらいは本書で言及されてもよかったんじゃないだろうか。

とはいっても、この本は「ちょっと香りのするビジネス書」であり、「カジュアルな歴史書」でもある。チャールズ・ダーウィンがウェッジウッドの創業者の孫だった、とかエピソードを挟みながら近代史がスーッと一望できる。

昨夏に読んだ『バナナの世界史』や『水が世界を支配する』も、1つのテーマから歴史を読み込む本だったが、どれも未来につながる重要なテーマを掘り下げた名著だと思う。