転勤を断って会社を辞めた。最近、この手の話を聞く機会が増えた。
僕自身は20代の後半に転勤を経験している。辞令を聞いた時は「エ?」と思ったが、逆らってもどうしようもなく、引っ越した。今になっては「視野を広げるいい経験」だったと、まあ歳を重ねた中年らしいことを言っているが、当時別のチャンスがあったら、どうしていたかはわからない。
身近に聞くのは、若い人が多い。とはいえ、結婚して子供がいて、しかも独立というケースもある。こうなると、単純に「すげ~頑張れよ」という気持ちになる。ただ、転勤拒否→退社というパターンが続けば人事としては相当辛いだろうな、とも感じる。
ただ、こういうのは若手の身勝手と片づけるわけにもいかない。少し前にテレビ(クローズアップ現代)でも取り上げていたが、そもそも転勤システムが持たなくなってきているのだ。
この番組では、共働きや介護など、家族の事情を配慮して転勤猶予や勤務地限定正社員の制度導入が紹介されていた。ただ、制度以上に働く側の意識が相当に変わっているように思う。
「居住、移転及び職業選択の自由」は、憲法では22条でワンセットになってる。企業が転勤を命じるのは、契約上当然あり得る話なんだけど、じゃあ個人が「職業(会社)」と「居住地」のどちらを優先するか、というのは、まったく人によって異なるはずだ。
ただ、今までの会社員、ことに大企業の中では「居住地優先」という発想は薄かった。でも、冷静に考えると「私はどんな仕事をするか以前に、どこで暮らすかを優先したい」というのは、まったく真っ当だと思う。
勤務地は選択できない、という雇用契約があれば「転勤拒否」ということになるかもしれない。しかし、その「拒否」という言葉も会社側の発想で、当人としては「居住地優先」でその結果として会社との契約は終了ということになる。
会社としては困ると思うけど、社員のせいにする前に根っこから見直した方がいいかもしれない。地域限定で給与が抑えられたとしても、夫婦で仕事が続けられれば、その方がトータルでは遥かに豊かな生活ができるようにも思うし、そういう選択が当然になるのではないだろうか。
「転勤拒否」というのはちょっと非常識な響きがするかもしれないが、「単身赴任」が当たり前になる方が相当おかしいようにも思う。
考えてみれば「居住の自由」を返上してせっせと働いてきたのも、それが結果として「生活にとってプラスになる」と信じていたからだ。ただし、もはやそれも相当怪しいことは誰もが気づいている。
最近聞いたけど、とある会社で取締役が転勤する者にこう言ったらしい。
「いや、大変申し訳ない」
もう、皆が気づいていることをいつまでも続けても仕方ないんじゃないか。やはり転勤のシステムは、相当な曲がり角に来ていると思うのだ。