2014年4月9日 東京オペラシティ―
レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノリサイタル
〈オール・ベートーヴェン・プログラム〉
ソナタ 第11番 変ロ長調 Op.22
ソナタ 第28番 イ長調 Op.101
創作主題による6つの変奏曲 ヘ長調 Op.34
ソナタ 第23番 ヘ短調「熱情」 Op.57
〈アンコール〉
ベートーヴェン:7つのバガテルより第1番
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22番より第2楽章
シューベルト:楽興の時より第6番
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常にピアニストを追いかけているほど、このカテゴリーを聴きこんでいるわけではないが、アンスネスは数年前にFMで「展覧会の絵」を聴いて以来、ほとんどのディスクを持っている。
生演奏は、昨年フィルハーモニー管弦楽団の来日公演でベートーヴェンの第4協奏曲を聴いたのが初めてだったが、想像した以上に音がやわらかで美しかったことに驚いた。
アンスネスは、いまベートーヴェンを「弾き始めた」ピアニストである。つまり、録音やリサイタルで「世に問う」歳になった、という意味のことを本人も語っている。そして”THE BEETHOVEN JOURNEY”(ベートーヴェンの旅)というプロジェクトが動き始めているのだ。
そして、この日のリサイタルを聴いて「旅」の意味が、少し理解できた気がする。やたらと「決定版」を求める人や、ベートーヴェンに過度の神格性を求める人は、この夜に物足りなさを感じたかもしれない。
ただし、そういう人は自宅で昔のディスクを撫でていればいい。これは、あくまでも旅なのだ。ベートーヴェンの音楽を通じて、ベートーヴェンの心の軌跡を旅して、それを聴衆と共有しようという試み。
だから、作曲年代によって演奏様式も変わる。軽やかに弾かれる初期の11番と、悠然と時にテンポを揺らしながら奏でられる28番。一貫性がないのではない。それが、ベートヴェンの旅なのだから。
そして「熱情」で時折聴かれる、慟哭のようなフォルテ。そういう時に、全く乱れずに美しく深い音を奏するテクニックに裏付けられて、旅はますますスリリングになっていく。
これは、作曲者、演奏家、そして聴衆の三位一体の旅団になるのだろうか。それは演奏史における新たな試みかもしれない。
来年は協奏曲の全曲演奏のために来日するという。これからも、この旅には同道していきたいと思わせる一晩だった。