ヤルヴィは、律儀なフレンチ・シェフだった。
(2013年11月7日)

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2013年11月5日 サントリーホール
パリ管弦楽団 演奏会
シベリウス: 組曲『カレリア』 op.11
リスト: ピアノ協奏曲第2番 イ長調 S125
〈アンコール〉
ラヴェル :『クープランの墓』から「メヌエット」
サン=サーンス: 交響曲第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付」
〈アンコール〉
ビゼー:管弦楽のための小組曲op.22『子供の遊び』より「ギャロップ」
ベルリオーズ:『ファウストの劫罰』より「ハンガリー行進曲」
ビゼー:オペラ『カルメン』序曲
ピアノ:ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ
オルガン:ティエリー・エスケシュ
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
パリ管弦楽団
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パリ管を聴いたのがいつ以来だったのか、なかなか思い出せない。確実に記憶しているのは1985年にパリで聴いたことだ。バレンボイムのスクリャービンで、まだ僕は大学生だった。
おそらく、それ以来だと思う。つまり、「ほぼ初めて」ということだろうか。フランス放送響は幾たびか聴いているのだけど、パリ管はなぜか縁がなかった。
一曲目から少々驚いたんだけど、ヤルヴィという人は本当に律儀だ。カレリアが、あまりに立派で、堂々としていることに少々驚いた。
かなり、ズッシリした前菜。しかし、ソースはくどくない。このコンビ、どうやら絵にかいたようなフレンチ・テイストではなさそうだ。
リストは、ピアノが精妙だけど軽やか。チェロのソロとのアンサンブルは、本当に印象的だった。2番のコンチェルトを聴く機会は少ないが、重すぎず、まとまりもあって、もちろん華やか。この日の演奏の中で、ある意味もっともフランスらしさを感じたようにも思う。
そして、サン=サーンス。
こういってしまうと身も蓋もないけれど、この曲はプロフェッショナルが真っ当に演奏すれば、必ず盛り上がるようにできている。だから、聴き終ってしばらくするとフィナーレの印象ばかりが記憶に残ることが多い。


ただし、この日の演奏会で思わず聴き入ったのは一部後半のアダージョだった。この曲がカトリックの祈りそのものなんだ、ということがジンワリと伝わってくる。もちろん、終盤に向けての音の積み重ね方は、さすがに分厚い。
アンコールは、3曲。聴衆の満足度は高かったと思う。
あらためて思い起こすと、ヤルヴィとパリ管は「しっかりした」という印象が残る。音楽つくりという面からは、隙がない。あらさがしは可能だが、そんなことが野暮に思える。一方で、また聴きたいのか?というと個人的には微妙だ。立派で、おいしいけれど、再訪しないフランス料理店を思い起こす。
このあたりは、もう好みの問題なのだろう。
ヤルヴィに限らないのだが、オケと指揮者、そして聴衆の関係はこの20年くらいで大きく変わってきたと思う。簡単にいうと、オケの力が強くなった。「オケが認めない指揮者」はなかなか表舞台に立てないように感じる。
一方で聴衆も浮気がちだ。オケとしては、一時的に脚光を浴びて「客を呼べる指揮者」と心中するよりは、いい音楽をつくる「実力者」を選ぶだろう。
スターの時代ではないのだろうが、音楽文化にとってはその方がいいのかもしれない。