業界ではよく使われているのに、誤解にまみれている言葉というのがあって、マーケティングだと「ニーズとウォンツ」はその代表格かもしれない。
先に話題になった、インダストリアルデザイナーの奥山清行氏のこちらの講演でも、この言葉が出てきたのだが、ちょっと不思議な使われ方だった。少なくても「ウォンツ(原表記ワンツ)が和製英語」というのは、違うだろと。
しかし、この2つの言葉の混乱はコトラー本の訳にも由来すると思っている。マーケティングの旧約聖書とでもいうべき「マーケティング・マネジメント」には「ウォンツ」という単語は出てこないのだ。
じゃあ、どうなっているかというと、こう書いてある。
「マーケターは標的市場のニーズ、欲求、需要を理解しようと努めなければならない」
英語だと、needs ,wants, demandsだ。needsはニーズとカタカナだが、wantsは「欲求」になる。
ところが、needsという単語は往々にして「欲求」という訳語がつく。マズローの「自己実現欲求」というのもneedsの訳語なのだ。で、コトラーの本にもマズローは出てくるのだが「自己実現ニーズ」となっている。
そういうこともあって、ニーズが「必要なもの」でウォンツが「欲しいもの」という誤解もあるのだろう。その上、マズローを引っ張り出して「高次の欲求がウォンツ」とかいうのは、何というか、まあ単なる「嘘」だ。
そのあたりのことはネット上にも怪談が溢れているが、「本当の定義」も書かれているこちらのページあたりがまとめられていると思う。
しかし、奥山氏の講演を最後まで読むと単純な結論が出てくる。それは「ニーズやウォンツの定義を知らなくても凄いモノは生み出せる」ということだ。定義が重要なのではない。それは辞書の編集者が、文章を書けるとは限らないということと同じなのだ。