まず、講義に先立って一言。
先の震災で皆さんも大変苦労されたと思うし、関係者の方の中にも被災された方がいると思います。改めてお見舞い申し上げます。
また、こうした環境にもかかわらず予定通りに講義がスタートできたことに感謝したいと思います。
とはいえ、現在においてもまた平時とは言い難いことはたしかです。皆さんの先輩は、卒業式ができませんでした。そして、皆さんの後輩は入学式ができなかった。今回の震災の影響がきわめて多方面に及んだ例のないものだということが感じられると思います。
間違いない、戦後最大の「災い」であり、それは天災でもあり、また人災でもある。本日、福島原発の事故が「レベル7」であると発表されたが、これは一部の人々の責任に帰して住む問題ではないということです。
すべての日本人が、いま生活と社会のあり方、そして自然との向き合い方について考え直してる。
こういう中で、昨年と同じ講義ノートを読むだけであれば、ハッキリ言って大学の講義と言えないと思います。したがって、今年の講義は「いま考えなくてはならないこと」をやります。
その上で、3つのことを覚えておいてください。
1つ目は、まず今までのマーケティングのセオリーやスキルはそのままでは通用しないということです。
震災の影響、特にエネルギーの供給不足は人々の生活スタイルはもちろん、心理までも変えていくでしょう。その行く先を見きわめなくてはいけない。
日本人の価値観は大きく変わり、マーケティングも変わらざるを得ない。
2つ目は、その一方で世界の歩みは変わらないということです。テクノロジーの発達は進み、世界のマーケティングはどんどん変わる。日本の変化ばかりに目をとられると「日本でしか通用しない」ことになる。それは、皆さんの将来にとってマイナスです。したがって、最新の動向をキャッチアップすることも併せて注力したい。
3つ目は、日本の変化が今後の世界をリードする可能性についてです。エネルギーと環境問題は、経済活動の量と質を規定するし、これは地球のすべての人にとって逃れられない問題だ。日本がエネルギー不足の中で新しい生活様式を確立できれば、それはやがて世界をリードするかもしれない。それは、私が教えるのではなく、皆さんと一緒に考えることであり、授業にもそうしたスタイルを取り入れていきたい。
マーケティングはたしかに「ビジネスの道具」であるけれども、その根本は「よりよい生活のための知恵」で、「分かち合う」ためのスキルなんです。そのことを私も考え直すべきだと痛感しています。
そういうわけで、今年の講義は「現実とかかわり続けながら、マーケティングそのものを捉えなおしていきたい」と考えています。よろしく。
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上記文章は昨日(2011年4月12日)に青山学院大学経営学部マーケティング学科「マーケティング・プロフェッショナル実践Ⅰ」および「メディア・プランニングⅠ」の開講時に話した内容の抄録です。