ネットリサーチと牛丼。
(2010年4月22日)

カテゴリ:マーケティング
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マクロミルとヤフーバリューインサイトが経営統合の協議を始めたという。
統合や合併には「攻め」と「守り」のケースがある。「攻め」というのは、古くは新日鐵の誕生(イヤ本当に古くてすまない)や、トヨタがダイハツや日野などをグループ化していったようなケースだ。海外企業との競争力を向上させたり、短期間で製品バリエーションをそろえることが目的になる。
近年の日本では圧倒的に「守り」のケースが多い。「合併でもしなければ生き残れない」というわけで金融から百貨店、素材メーカーなどはこの手のケースの代表になる。
今回のリサーチ2社も「守り」の統合ということだろう。理由は2つある。
1つは昨年12月の決算数字が両社ともマイナスになっていることだ。(マクロミルは第2四半期)市場が縮小に向かっている中で効率化を進めたいということだろう。
もう1つの理由は、数字に出ていない問題が発生していることだ。
別にネット調査は信頼性が低い、ということではない。ネット調査の品質は年々向上して、安価でかつ一定の信頼のできるデータを入手できるようになった。
品質・価格・迅速性。これらを満たしているのに、なぜ問題なのか。何だか、書いているうちに当初の予定と気が変わったのだけれど、この業界、何だか今の牛丼屋業界と似てるんじゃないか。

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牛丼は「うまい・安い・早い」で、日本人が牛肉喫食の機会を高めた。牛肉は高価なものだったのだ。今でも、高級な店に行けばそれなりのカネはかかる。
でも、そういうところへ行く時は前々から「準備」がある。「週末は肉を食べるぞ」と決めていれば、節約しておこうとか魚を食べたりとかして、ご馳走を待つ。あれこれ迷って、飲み物を選んでありがたくいただく。
しかし、牛丼を食べるのにそういう準備はしない。というかそういう準備なく牛肉を食べられる。質も上がった。
でも、そのための準備をしなくなった。これはネット調査でも同様だ。

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僕は学生時代のゼミで調査の設計、実行から分析までをおこなった。実際に家庭も訪問する。分析は、まだパソコンがなかったけれど数量化2類くらいまでは、やった。というか先生がやっていたのだけれど。
そこで学んだことは単純だ。どんな精緻な分析よりも、調査というのは「調査の前にその品質が決まる」という当然の事実である。つまり、質問設計・サンプル抽出・調査員選定の3つだ。これはネットでも同じはず。調査員選定はインターフェイス設計と置き換えればいい。

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ところが、あまりにも便利になってスピーディだとどうなるか。
たとえば広告代理店がオリエンテーションを受けると、「まず調査でもするか」ということで、チャッチャッチャと設計して数日でアウトプット。しかも美しい。プレゼンテーションまで十分に間にあう。
ネット調査がない時は、プレゼンテーションのためにオリジナル調査をするのはそれなりの決断があった。予算とカレンダーとの睨めっこ。もし調査するなら、設計にはかなりこだわった。便利になったために、発注側が、設計で技を磨かなくなった。
これは代理店だけの問題ではない。メーカーにしても、どこも同じような調査をするので、競合がみんな似たようなデータを頼りに商品開発をおこなう。アウトプットが似通ってしまうのは当然である。
この問題は、結構難しい。別にネット調査を訪問に変えればいいというわけではない。牛丼屋に罪はなくても、確実に「食い手のスキル」は低下するようなものだ。そこで誰かが牛丼のような価格戦争を仕掛ければ、あとは関係者の疲弊がたまる。「エクセル・ブルーカラー」というような職種って、結構多いわけである。

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やはり発注側が意識を変えなくてはいけない。「牛丼を食べるにもステーキやすき焼きと同じような準備が必要」と、改める必要がある。つまり調査設計に、人的コストを注入するべきだ。そして、リサーチ会社も自らの価値を安く売るのは止めた方がいい。経営者やファウンダーの懐は関係ないのかもしれないが、人件費を抑えてリサーチをダンピングしたら日本のマーケティングの水準はそれによって確実に下がるだろう。
それは、牛丼の採算無視の値下げが日本の食文化を滅ぼすようなもの。日本の食は、長い歴史があって大丈夫だと思うけれど、マーケティング界はまだまだ成長期だけに気になるのである。