会社にいた頃「これからは”デジタル”と”グローバル”だ」と方針で言われたのは95年頃だった。「サービスのフィーで稼ぐ」と言われたのは入社直後なので、さらにその10年前になる。
これはどの広告代理店も似たようなものだと思うのだろうけど、一体、あの号令は何だったのだろうかという気がする。
紺屋の白袴、という言葉がある。紺屋、というのは染物屋のことなんだけど、それなのに自分の袴は白。プロは人の面倒は見るけど、自分のことには気が回らず。医者の不養生、と似たようなものか。
広告代理店もそういうところがあって、よそ様の会社に言っては「ビジョンを作りましょう」とか「経営理念を」とか能書きを垂れるのだけど、自社のことになると結構ウニャウニャである。
もちろん、それらしきものはあるんだけど、それはビジョンというより「キーワード」に過ぎないことが多い。
ビジョンと、キーワード。これは全然違う。
ビジョンは、見通し。さあここを目指すぞ、という具体性がある。そこに向かってメンバーが動いていく。
キーワードというのは、文章を読むときの「手がかりになる言葉」だ。もう少し広い意味で使うと、「世の中の動きを読むとき」の手がかりになる言葉。
しかしキーワードは、あくまでも「手がかり」でしかない。
それなのに、経営者がとりあえず「キーワード」だけを投げるというのは、リーダーとしては何も言っていないのだから、「後はみんなで考えてね」と言っているに過ぎないわけで。
デジタルもグローバルも、フィーもソリューションも、考えてみればすべては「キーワード」だ。手がかりに過ぎない。
しかも、その手がかりは誰でも知っている。
別に広告の世界に限らない。リーダーが、ビジョンを語っているようで、実は「キーワード」しか語っていないような企業はたくさんある。これは船でいえば、ジワジワ浸水が始まっている状態だ。乗組員の方は気をつけた方がいい。
2010年04月アーカイブ