先週は選挙前ということもあって、報道などが選挙に及ぼす影響について「アナウンスメント効果」などいくつかの理論を紹介しましたが、今日はそうしたことを踏まえて、選挙結果への影響などを考えてみようかと思いました。
ところが、選挙直前に安倍元総理が撃たれて亡くなるという事件がありました。本当に衝撃的だったし、皆さんの世代にとっては「総理大臣と言えば安倍さん」というイメージだったと思うので、それぞれに思うところもあったと思います。
ニュースを見て感じ方はそれぞれだと思いますが、先日もお話した「共感疲労」については、あらためて注意してください。
さて、選挙結果は自民党だけで改選過半数を確保しました。そして、銃撃事件が自民党に有利に働いたのでは?という意見を見た人もいたと思います。ただし、これを検証するのは大変に難しい。調査方法を考えても相当困難だと思います。
そこで、選挙結果から自民党の「比例代表区の得票推移」を見ることで、事件の影響を推測してみようと思います。比例代表の得票は、各党の「党勢」がわかりやすく見られるからです。
そして結論から言うと、あの狙撃事件は自民党にとって「逆風にはならないが、かと言って強い追い風でもなかった」と思います。これは状況証拠からの推測のようなものですが、一つの考え方として聞いてください。
まず比例区の得票数ですが、前回よりはたしかに増加してます。70万票以上増えてます。しかし2016年の票数よりは少ないわけです。6年間で党勢が拡大しているとは言い切れません。
さらに、得票率を見るとむしろ減少していることがわかります。相対的な比率では前回よりも低いということです。
いっぽうで、投票率は7%ほど伸びています。
つまり、事件の影響かどうかはさておいても「投票に行こう」と考えた人はたしかに増加しました。しかし、その多くが自民党への同情票だったようには見えません。もしそうだとしたら、得票率においても前回を上回っていたと考えられます。
今回は維新の会が得票数も得票率も伸ばしてます。また小規模な新政党も議席を獲得してます。前回は行かずに、今回投票所に足を運んだ人はそうした政党を支持していた可能性も高いでしょう。
ここまでの話はあくまでも推測です。あの事件がなければ自民党の得票が遥かに少なかった可能性もあります。しかしメディア各社の事前の世論調査は、今回の与党勝利をある程度予測してました。
それでもたしかに自民の議席は予測範囲の上の方ですが、これは激戦の1人区で勝利したことが効いてます。それぞれの選挙区であの事件がどう影響したか?というのはまた検証が必要ですが、「おおきな流れ」を見るならばこの比例代表区の得票が手掛かりとしては有用でしょう。
メディアの中にはいろんな意見があります。何の根拠もなく「あの事件が選挙で自民を勝たせた」という声も見るでしょう。
しかし、少なくても数的な手掛かりを探せば見えてくる風景は変わってきます。ザワザワした時代こそ、メディアとの向き合い方が問われてくると思います。
(2022年7月12日青山学院大学の講義より抜粋編集)