「2018年読んだ本」を先月後半に月別に書いていたのだけれど、6月で力尽きたまま年末でダラダラしたこともあり、実質仕事始めの明日までにとりあえず後半分をまとめておこうと思った。
何といっても、半年分なので厳選して紹介。
キャシー・オニール『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』(インターシフト)は、ちょっとおどろおどろしい邦題で損してるかもしれまいけど、原題のキーになる概念はMath Destructionで、「大量破壊兵器」のmassをmathにかけている。つまり、「数学的な破壊」ということだ。重要なのは「フィードバックループ」という概念で、たとえば「犯罪多発地域」というデータで警戒を強化すると、そのエリアの人は些細なことでも検挙されて……のようなループのこと。これは、広い分野に当てはまる。とても大切な本だと思うし、強くお薦めしたい
。
夏に読んだミステリーはチューダー『白墨人形』(文藝春秋)に、若竹七海『錆びた滑車』(文春文庫)で、後者は個人的に大ファンの女探偵・葉村晶シリーズの最新刊で、相変わらずの構成力と味わいだった。前者は年末のベスト10などであまり高い評価を受けていないのが謎。上位の中にも、「なんだこれ」が多いわけでこの辺りはまあよくあるんだろうけど。
9月に入ってドニー・アイカー『死に山』(河出書房新社)は、「世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相」という副題を読んでも、「なんだそれ?」という感じかもしれない。旧ソ連で起きた学生たちの山岳遭難の真相に迫るノンフィクションで、このカテゴリーでは昨年のベストに挙げる人もいるかもしれない。
歴史小説では梶よう子『赤い風』(文藝春秋)が、綱吉時代の川越藩領の農地開拓というやたらと渋いテーマなのだけれど、これが想像以上に面白い。つい先日舞台になった埼玉の「多福寺」まで行ってしまった。
野口卓『大名絵師写楽』(新潮社)は、数ある「写楽もの」の中ではもっとも精緻な設計になっているのではないだろうか。写楽後期作品の謎のへたれぶりも、この筋書きだと腑に落ちる。慌てて図版を借りて、いろいろ突き合わせながら楽しんでみた。
秋になって読んだミステリーは、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』(創元推理文庫)だ今年のダントツだと思ったけど、世評もそのようだ。陰惨な北欧系にそろそろ飽きてきたタイミングでの「やっぱ謎解きは英国」という風格がある。
変わり種では陸秋槎『元年春之祭』(早川書房)で、前漢時代を舞台にした本格ミステリー。日本の影響を受けた中国人作家のようだが、昨年の
『13・67』といいアジアの小説はこれからますます注目されるだろう。
独特の世界観と読後感で気持ちよかったのが藤井太洋『ハローワ
ールド』(講談社)だ。エンジニアが主人公の小説と
いうのも珍しいんだけど、テクノロジーと社会・経済、そして国際政治までひっくるめて一気に読ませる連作小説。軽いけど、問いかけの重い連作小説だ。
そして、昨年後半に読んだ本でSNSで紹介してもっとも反響があったのが、先崎学『うつ病九段』(文藝春秋)だった。これは、さまざまな「うつ病本」の中でも、アタマ一つ抜けたインパクトがあり、深く考えさせられる。ある種
の謎解きのようなところもあり、紹介しにくいのだけれど、ぜひお薦めしたい。
ああ、やっと2018年が終わった。今年の仕事をしなければ。